研究課題/領域番号 |
21K08509
|
研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
渡部 匡史 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (60634326)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | がんウイルス / ヘルペスウイルス / カポジ肉腫ヘルペスウイルス / ウイルス性転写開始前複合体 / 近位依存性標識法 / AlphaFold2 |
研究実績の概要 |
新規近位依存性標識法を用いた宿主性vPIC相互作用因子の同定に向けてvPIC因子であるORF34またはORF66欠損ウイルス産生細胞に対して,近位依存性標識タグ付加ORF34またはORF66発現プラスミドを導入し,定常発現細胞を前年度までに樹立していた.これらの細胞においてウイルス複製が正常に進行しているか,近位依存性標識タグが機能しているかについて確認したものの,因子同定に至ることのできる機能的条件を十分に満たす結果が得られていない.そのため,代替方策を準備・検討している. ウイルス性vPIC因子の機能性領域の同定については,vPICのハブとして機能しうるORF34に着目し解析を進めてきた.具体的にはヘルペスウイルスホモログ間での保存アミノ酸についてアラニン置換体を18種作成し,各種性状解析に供した.得られた実験結果に関してクラスター解析を実施するとともに,Deep-learningによるタンパク質構造予測アルゴリズムAlphaFold2による予測構造モデルとの照合を実施し,分子機能とタンパク質構造との関連性について検討した.いくつかの知見は得られたが,少なくともORF34上に存在する4つのシステイン残基に関しては,ドメイン構造維持を介して分子機能保持に重要な役割を担っている可能性が強く示唆されたと考えている.上記の内容を論文投稿し,さらにプレプリントサーバBioRxiv上で公開している(Watanabe T. et al., bioRxiv., 2023 doi: 10.1101/2023.03.08.531831. Preprint.). また補助プロジェクトとして進めていたvPIC因子間(ORF18-ORF30)相互作用に関する内容が,原著論文として受理された(Maeda Y., Watanabe T. et al., Int. J. Mol. Sci. 2022).
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ORF34欠損ウイルス産生/ビオチン化酵素タグ付加ORF34定常発現細胞,ORF66欠損/タグ付加ORF66定常発現細胞について,機能確認実験を実施した.ウイルス産生量を評価し,ビオチン化酵素タグによる複合体形成阻害による機能障害が起きていないか検討した.まずMini-Turboタグについてはタグ付加ORF34によるウイルス産生量の復帰が確認された一方で,タグ付加ORF66では認められなかった.次に,Mini-Turboタグによる細胞内タンパク質ビオチン化について検証した.タグ付加ORF34発現細胞におけるタンパク質ビオチン化は認められたものの,コントロール細胞(Mini-Turboタグのみ発現)よりもビオチン化効率は低かった.タグ付加ORF66発現細胞ではタンパク質ビオチン化は認められなかった. ウイルス性機能性領域の同定に関しては,本年度までの実験および解析結果を原著論文としてまとめた.具体的には,計18種のORF34点変異体に関して,他のvPIC因子(ORF24, ORF66)との結合能,ウイルス産生量,ウイルス後期遺伝子発現量について階層クラスター解析を実施した.その結果をAlphafold2によるORF34構造予測モデルと照合した.得られた考察としては,ORF34の4つの保存システインはC末端側ドメイン構造上に存在しており,CxxCモチーフを介したイオン補足によるドメイン構造維持に重要だと推測された. ORF34はN末端側にもドメイン構造を有していることが推測され,vPIC因子(ORF24, ORF66)との結合には直接関与しないものの,機能上必須な部位であることが示唆された.以上の内容を論文投稿し,さらにBioRxiv上にプレプリントとして公開した (Watanabe T. et al., bioRxiv. 2023. Preprint.).
|
今後の研究の推進方策 |
宿主性vPIC相互作用因子の同定については,同じくビオチン化酵素タグであるAPEX2タグについて,Mini-Turbo同様に欠損ウイルス産生細胞にAPEX2タグ付加ORF34またはORF66発現プラスミドを導入した定常発現細胞を樹立している.こちらについても機能確認実験を実施していく.あわせてビオチン化酵素タグ付加vPIC因子を保持するKSHV BACクローンの構築にも取り組んでいく.あわせて近位依存性標識法によるビオチン化タンパク質の分離・精製の実験手法も確立し,迅速に研究を進めていく.しかしながら,UC. Berkleyの研究チームからタグは異なるものの同じ標識系を用いたvPIC相互作用因子に関する解析結果が今年度プレプリントとして公開されたため,差異を生み出すべく検出系の高感度化を図りたいと考えている. ウイルス性vPIC因子の機能性領域に関する独自の解析結果やヘルペスウイルスタンパク質に関する知見から,ORF30をはじめとした比較的小さなサイズのウイルス性タンパク質も複合体形成に必須であることが示唆されている.これらの構造をベースにペプチドをデザインすることで,実際に複合体形成阻害効果を得ることのできるか否かについて検証したいと考えている.
|
次年度使用額が生じた理由 |
[次年度使用額発生理由] 前述した通り,当初予定していた新規近位依存性標識法による相互作用因子探索については適切な実験系の確立が難航している.そのため,分離精製した相互作用因子プロテオーム解析に必要なLC-MS/MS外注解析費が生じなかった.さらに,並行プロジェクトであるORF34機能性領域・残基に関する解析結果の論文・投稿や,vPIC因子間(ORF18-ORF30)相互作用に関する論文作成にエフォートが必要だったことも影響した. [次年度使用額使用計画] 現在までに生じた余剰金は,本来使用するはずであった外部依頼解析費用(その他)や,現在投稿中の論文が受領された場合の投稿料(その他)に充当する.また研究遂行時の必要に応じて,研究試薬等購入費用(物品費)などに充当する.
|