研究実績の概要 |
現行のインフルエンザワクチンは、インフルエンザの重症化抑制は可能であるが感染防御のための粘膜免疫を誘導できない。ワクチン抗原に対する粘膜免疫の誘導には粘膜アジュバントが必要であるが、臨床使用されているものはない。申請者は抗菌薬であるポリミキシンB(PMB)と食品添加物であるクロシンとスクロースアルキレート(SucC12)に粘膜アジュバント作用があることを明らかにしている。しかし、これらのアジュバント単剤の使用では抗体価の有意な上昇は認められたが、ウイルス感染に対する防御は十分ではなかった。近年、複数のアジュバントを併用することでアジュバント作用が増強されることが明らかになってきている。より強い感染防御効果を誘導するため、不活化インフルエンザウイルスにPMBとクロシンを併用したアジュバントを用いて新規経鼻インフルエンザワクチン開発のための基礎的検討を行うことを目的とした。 本研究でPMBとクロシンの併用ではアジュバント作用の相加効果は確認できたが、相乗効果は認められなかった。クロシンをスクロースアルキレートに変更することを当初予定として計画していたため、計画通りPMBとスクロースアルキレートの併用アジュバントの物理化学的特性評価の再検討を行った。 モデル抗原としてオボアルブミン(OVA)を用いPMBとSucC12を混合した溶液中に形成される粒子の直径とζ-電位(溶液中の粒子の表面電荷を反映する値)を測定した。PMBとSucC12の配合比を変えることで直径:71ー2,387 nm、ζ-電位:-6.5ー+8.9 mVの粒子を形成できることが明らかにした。鼻腔から鼻粘膜への抗原の移行には、直径が100ー500nm程度でζ-電位は正電荷が適していることから、PMBとSucC12を併用することでより強い粘膜アジュバント作用が発現されると考えられた。
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