研究実績の概要 |
1)劇症1型糖尿病患者およびモデルマウスの膵組織における鍵分子の発現:研究協力者らにより、抗PD-1抗体薬投与後に1型糖尿病を発症した症例の剖検膵を用い、膵におけるPD-L1の発現を免疫組織化学的に検討した。その結果、PD-L1が膵の一部に発現していることを明らかになった。 2)劇症1型糖尿病患者におけるCD300eの解析:抗CD300e抗体の機能解析として、劇症1型糖尿病患者(FT1DM)、自己免疫性1型糖尿病患者(AT1DM)、2型糖尿病患者(T2DM)、健常者(HC)の末梢血中から単離した樹状細胞/単球におけるCD300eの発現をフローサイトメトリーを用いて測定し、発現率に加え、新たにMean Fluorescence Intensityの解析を行なった。上記の対象群(FT1DM, AT1DM, T2DM, HC)をさらに詳細に分割して検討した結果、ある集団においてMean Fluorescence Intensityが高値であることを見出した。一方、CD300eのリガンドであるsphingomyelinを用いて刺激培養試験を実施し、上清中のサイトカイン濃度を測定する系を確立した。 3)高齢者劇症1型糖尿病の臨床的特徴の検討と治療への提案:高齢者1型糖尿病における、血糖コントロールと認知機能の関係を明らかにする目的で、65歳以上の高齢者1型糖尿病患者45名において、血糖コントロール指標を含む種々の臨床指標を検討した。認知機能の評価にはHDS-Rなどの指標を用いた。その結果、過去の平均血糖コントロール指標が高値であることおよび発症時からの重症低血糖の既往があることが認知機能の低下に関連することが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
1)劇症1型糖尿病患者およびモデルマウスの膵組織における鍵分子の発現:集積された患者膵においては、今後、膵島内に残存しているCD3陽性細胞浸潤と膵島内細胞のPD-L1陽性率の関連などについて検討する予定である。さらにEMC(encephalomyocarditis) virus 感染劇症1型糖尿病モデルマウス膵における鍵分子候補の発現を免疫組織化学などにより検討する計画である。これらの検討で鍵分子が明らかにならない場合は、さらに候補分子を増やして検討を進める。具体的にはCTLA-4, CD28, CD80/86, CD11b, CD11c, CD163, CD300e, HLA class I, HLA class II, CSAD, ITGB7などの分子である。 2)劇症1型糖尿病患者におけるCD300eの解析:フローサイトメトリーを用いた検討および刺激培養試験での検討においては、集積した検体を用いた検討を進める。患者血中CD300e抗体の測定はCOVID-19などの影響を受けているが、今後重点的に症例の集積に努める。 3)高齢者劇症1型糖尿病の臨床的特徴の検討と治療への提案:今後は劇症1型糖尿病を対象として抽出、場合によってはさらに症例を増やし、認知機能の低下など血糖コントロールに影響を与える因子を統計学的な手法を用いて明らかにする。最終的には、これら結果より、高齢1型糖尿病における最適の治療目標、それを達成するための治療方法を提案する。 これらの方策は研究代表者のもと、研究協力者、大学院生を組織して推進していく。
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