研究実績の概要 |
糖尿病において神経障害は最も頻度が高い合併症である。症状に痛み、知覚鈍麻があり、最悪四肢の切断となる。また、自律神経障害が起こると突然死を来たす。現在、根治的治療は確立されていない。その理由の一つに、その成因は多因子であることがある。岩木健康増進プロジェクトは弘前大学で行われている検診ベースのコホート研究である。岩木健康増進プロジェクトでは2000-3000項目の様々なデータをとっている。申請者も岩木健康増進プロジェクトに参加し、PINT法による痛覚閾値を評価している。本申請課題では糖尿病性神経障害、特に痛覚に対する新しい臨床的因子を岩木健康増進プロジェクトのデータを用いて探索することを目的としている。 腸内細菌叢、口腔内細菌叢の変化と痛覚閾値の相関について検討した。その結果、口腔内細菌叢は痛覚閾値とは相関がみられなかった。一方で、腸内細菌叢ではバクテロイデス属の割合の低下との相関が認められた。このことは、痛覚閾値の悪化に対し、生活習慣に介入することによる腸内細菌の是正が治療オプションの一つになりうることを示している。 また、これまで我々は糖尿病性神経モデル坐骨神経において網羅的メタボローム解析を行い、グルコサミンの蓄積、病態への関与を報告した(Mizukami H, Brain communications, 2020)。しかしながら、ヒトにおいて代謝物の変化と神経障害の関連は未だ明らかになっていない。そこで岩木プロジェクトで得られた痛覚閾値と網羅的代謝物データの相関を評価した。そのことにより、痛覚閾値に対する代謝物の変化、関連を検討し、糖尿病性神経障害に対する新たな病態の解明、治療戦略の確立を目指した。その結果、血中のトリプトファン代謝と痛覚閾値は有意に相関することが解明された。トリプトファン代謝を調整する新しい治療法の確立も期待された。
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