研究実績の概要 |
膵内分泌細胞の一つであるγ細胞は膵内分泌細胞の一つで、膵頭部に多く存在する。γ細胞が分泌するPPは摂食や肥満の抑制、脂質代謝異常症の改善に寄与することが知られているが、γ細胞自身の生理的意義については不明な点が多い。そこで我々はγ細胞の生理的機能を明らかにする目的でγ細胞の量の変化するモデルを探索した。その結果、プログルカゴン遺伝子欠損マウス(Hayashi, Y. et al., Mol. Endocrinol., 2009)でγ細胞が過形成すること、正常膵内分泌細胞ではあまり見られないPP+ グルカゴン+(GCG+)二重陽性細胞が多数存在することを見出した。これに加えて、これまでの知見から肝臓でのグルカゴン作用不全によりα細胞の過形成が誘導される(Solloway,M. J. et al., Cell Reports, 2015)。また、この現象は、肝臓でのアミノ酸の取込みおよび異化作用の抑制により血中のグルタミンをはじめとするアミノ酸が上昇し、これが引き金となり、α細胞のグルタミントランスポーターであるSlc38a5の発現が亢進し、α細胞内に多くのグルタミンが取り込まれることで増殖シグナルであるmTOR経路が活性化され、α細胞の過形成が誘導される(Dean, E. D. et al.,Cell Metab., 2017)。その後、我々はγ細胞に注目して解析を行うことにより、グルカゴン作用不全によってγ細胞が自己増殖すること、また増殖した多くのα細胞がPPを発現し、PP+ GCG+二重陽性細胞となることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
既にアミノ酸シグナルによってα細胞量が増えることは報告されたが、このα細胞の特性について興味深い言及がされている(Solloway, M. J. et al., Cell Reports, 2015)。増加したα細胞の一部がβ細胞様の特性を獲得し、結果してGCG+ INS+二重陽性細胞が誘導されるというものである。これに加え我々の検討では、10週齢肝臓特異的グルカン受容体欠損マウスおいてα細胞量の増加とPP+ GCG+二重陽性細胞を認めるが、多くのα細胞はPP抗体で染色されない。これに対し、40週齢肝臓特異的グルカン受容体欠損マウスでは、PP+ GCG+二重陽性細胞の数が劇的に増加する。この結果より、我々はアミノ酸シグナルによって増加したα細胞がPPを発現し、その結果としてPP+ GCG+二重陽性細胞の増加が誘導されたと考えている。また、この際、PP+SST+二重陽性細胞、PP+ INS+二重陽性細胞、PP+ GCG+ SST+三重陽性細胞などの複数のホルモン陽性細胞が観察される。すなわち、アミノ酸シグナルによって増加したα細胞およびγ細胞は正常な膵内分泌細胞と異なる特性を持つ細胞へと分化した可能性が考えられる。。そこで、高濃度アミノ酸条件下でのα細胞とγ細胞の特性を解明するためにトランスクリプトーム解析を行い細胞特性を明らかにしたいと考えている。また、アミノ酸の種類よって分化する細胞に違いがあるのかを検討したい。
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