研究課題/領域番号 |
21K08555
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
井口 元三 神戸大学, 保健管理センター, 教授 (60346260)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 自己免疫性下垂体疾患 / iPS細胞 / 抗PIT-1下垂体炎 |
研究実績の概要 |
本研究では、ヒトiPS細胞と腫瘍免疫の技術を応用することにより、アンメット・メディカル・ニーズの高い自己免疫性下垂体疾患の病態解明のための疾患モデルを樹立し、原因となる普遍的メカニズムを見出すことで、新たな診断法および治療法の開発につなげることを目的とする。現時点での進歩状況は以下となる。 Step①:患者由来iPS細胞(AP01株)から下垂体組織を作成した。また、ターゲット抗原蛋白であるPIT-1の制御下にGFPレポーターを発現するiPS細胞を用いて標的組織としての下垂体細胞の収集効率を高めた。 Step②:患者由来の抗原特異的キラーT細胞の作成と再活性化を行うステップとして、患者末梢血からリンパ球を抽出し、マグネテックビーズを用いて制御性T細胞(T-reg)を除去した後、抗原認識部位であるエピトープの近傍の複数ペプチドでリンパ球を刺激して特異的キラーT細胞を選別し、キラーT細胞の特異的反応を確認した。その後、IFN-γ ELISpot解析により抗原特異的反応性を確認し、FACS・セルソーターを用いて、T細胞の活性化および細胞傷害指標であるCD137(4-1BB)およびCD107aをマーカーとしてクローン化を行った。細胞障害性の高い候補クローンであるVβ7.1クローンを中心に順次解析を進めている。 Step③:in vitro 再構成疾患モデルの樹立と病態解析: ①で作成した患者由来iPS細胞からの下垂体組織と②でクローン化した患者由来抗原特異的キラーT細胞を共培養することにより、③自己免疫疾患(抗PIT-1下垂体炎)のin vitro 疾患モデルを樹立することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者が見出した自己免疫性下垂体疾患(抗PIT-1下垂体炎)は、自己免疫疾患としてだけでなく腫瘍随伴症候群としての側面を持つため、両疾患の発症メカニズムの解析において非常に優れたモデルとなり得る。 今回申請者が樹立した患者由来iPS細胞からの疾患特異的in vitro 再構成モデルはヒトの自己免疫性疾患のモデルとしてこれまで報告がなく世界初の成果である。これは既存研究では困難であった未踏領域を探索できるというアドバンテージを持つ。また、これまで存在しなかったヒト細胞モデルを用いた病態解明が可能になることで、安全で効果が高い自己免疫疾患および癌治療法の開発へ発展・波及していくことが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後、Step③で樹立に成功したin vitro 再構成モデルを用いた自己免疫性下垂体疾患の病態解析および創薬スクリーニングを行っていく予定であり、具体的には下記の研究を進めていく。 ・作成したin vitro再構成モデルにおいて、特異的細胞に対するキラーT細胞の自己免疫機序を、正常者から作成したモデルと比較する。それぞれをGeneChip遺伝子発現プロファイルによる網羅的発現解析を行い、発症メカニズムに関わる新規候補分子を同定する。・新規候補分子の機能解析として、マーカー染色FCMおよびクロム放出アッセイを用いて特異的細胞傷害への関与を明らかにする。・リビングイメージによる細胞傷害プロセスを可視化することで疾患モデルを薬物スクリーニングツールとして用いる。・共培養実験系を用いた創薬シーズ候補のスクリーニングとして、候補薬剤であるシクロスポリンA、デキサメサゾン、HLA class I抗体等をin vitro再構成モデルに添加する事により、自己免疫性下垂体疾患の細胞傷害抑制に繋がる薬剤を絞り込んでいく。
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次年度使用額が生じた理由 |
「基盤研究(C)」における独立基盤形成支援(試行)に採択されたことによる追加支援分の差額が生じている。次年度以降に速やかに使用する予定である。
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