研究実績の概要 |
PTH遺伝子発現のビタミンDおよびFGF23による抑制の分子機構の解明を目指した。昨年度までに、PTH遺伝子エンハンサー・プロモーターを含むレポーター活性を、副甲状腺特異的な転写活性化因子Gata3-MafB-Gcm2と、ビタミンD受容体VDR-RXRaを共発現させ、 ビタミンDの濃度依存的に抑制する実験系を構築していたので、これを利用して抑制の分子機構の解明を進めた。PTHプロモーター上には、VDR-RXRが結合して転写を抑制するnVDREが同定されているが、プロモーター・エンハンサーのさまざまな欠失変異体を作製して調べると、当該のnVDREは抑制には不要であることが判明した。一方で、MafB, Gcm2, Gata3の結合配列はいずれも必須であった。さらに、MafB, Gcm2, Gata3をWestern blotで検出したところ、これら3者が共存することによって、VDR-RXR-ビタミンD感受性が生じて減少することを見出した。この知見を手がかりに、ビタミンDによる抑制機構とSHPTでの破綻の実相を解明できるだろう。 一方でFGF23によるPTHの抑制の分子機構に関しては、確立した実験系の妥当性の評価に時間を要した。受容体FGFR1は、発現させるとある程度の活性化状態となってしまうので、共受容体であるaKlothoとリガンドFGF23に依存せずPTHレポーターをある程度抑制することが判明した。そこで別のレポーター系(Egr1遺伝子プロモーター活性)で活性をモニターしつつ、実験系の評価を行うことによって、FGFR1-aKlotho-FGF23の共存下で効率よくPTHレポーター活性が抑制されることを担保できる実験系が構築できたことを確認した。この系を利用し、FGFR1下流のどのシグナルがPTH転写抑制に必要とされるのかなどを明らかにすることに注力している。
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今後の研究の推進方策 |
副甲状腺機能の抑制系の受容体であるKlotho, FGFR, VDR, CaSRなどの転写調節機構を調べることによって、SHPTにおけるこれらの受容体の発現抑制と脱抑制の しくみを明らかにすることを目的としてきたが、昨年度までの結果を受けて、解析対象を広げる(FGFR(1~4), VDR, CaSRを対象とする)のではなく、PTHとKlotho遺伝子を対象として深掘りする方向性に転換した。本年度はさらにPTH遺伝子に対象を絞り、ビタミンDとFGF23による抑制の分子機構について知見を得ることができた。特にビタミンDによる抑制に関して、転写を活性化する側の因子であるMafB-Gcm2-Gata3(互いに物理的・機能的に相互作用することをすでに報告している)が、揃って共存するときに限って、ビタミンDによる抑制を受ける(タンパク質レベルで減少する:おそらく分解が促進される)ことを発見したことは、今後の進展にとって重要なポイントと思われる。そのメカニズムの解明は一筋縄ではいかない感触を得ているが、この点は非常に重要と考えられるので、重点的に解明してゆく。また、FGF23によるPTH遺伝子発現の抑制に関しても、信頼できる評価系を構築できた確信が得られたので、これを利用して解析を進めることで進展が見込めると考えている。一方、当初から予定していたカルシウム感知受容体CaSRを介したカルシウムシグナルによる抑制機構は、本年度も未着手のままである。FGF23による抑制機構と重複する仕組みである可能性もあるので、併せて解析を進め ることにする。
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