研究課題
インスリンはAktリン酸化を介し,様々なAkt基質の活性を制御して代謝作用,細胞増殖・成長作用および寿命調節作用を発揮する。糖尿病はインスリン作用の減弱により血糖が上昇する疾患であるため,インスリン作用は糖尿病にとっては有益である。この一方で,下等動物ではインスリン作用を抑制すると寿命が延長することから,寿命にとってはインスリン作用は有害である可能性が高い。インスリン情報伝達は枝分かれしている。その枝の中でどれが代謝作用に関与し,どれが寿命短縮作用に関与しているかが判明すれば,代謝作用の枝のみを活性化し,寿命短縮作用の枝は活性化しないような薬剤その他の治療を開発することにより,血糖値は正常化するが寿命は短縮してしまうことを防ぐことが出来る。Aktによりリン酸化を受け,その活性が低下する基質として,フォークヘッド型転写因子O(FoxO),グリコーゲン合成酵素3(GSK3),PGC1αその他の分子が知られている。このうち,FoxOは下等動物においてこれを活性化すると寿命延長が認められるが,高等動物においてはこれを肝臓で活性化するとインスリン抵抗性が生じるため,糖尿病においては不利益,寿命においては利益になる分子である。下等動物のFoxOは1種類だが,人やマウスなどの高等動物のFoxOは4種類存在する。このうち,最も研究が進んでいるFoxO1が,肝臓においてインスリン-Akt経路によって負に活性調節され,肝臓の糖産生の調節を担っていると考えられる。一方で,FoxO3は長寿遺伝子である報告があり,FoxO1と比較して糖代謝への影響が少なく,この活性化が糖代謝を悪化させることなく寿命延長をきたす可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
4種類のFoxOを臓器特異的に発現させ,インスリン抵抗性や糖代謝,寿命延長効果を観察できるツールが順調に作成できているため。
放射性同位元素で標識したブドウ糖を用いた,マウス無麻酔非拘束高インスリン血症正常血糖クランプ法により,全身および臓器特異的なインスリン感受性を生理的条件下で精密に測定することにより,4種のFoxoアイソフォームがどのような役割を分担しているのかを明らかにする。長期間にわたり臓器特異的に4種類のFoxOアイソフォームを活性化あるいは抑制することが,代謝や寿命にどのような影響を及ぼすかを詳細に調べてゆく。
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