研究課題/領域番号 |
21K08570
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
小野 啓 千葉大学, 大学院医学研究院, 准教授 (10570616)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | インスリン抵抗性 |
研究実績の概要 |
ヒトでは加齢によりインスリン抵抗性が生じると考えられているが,マウスにおいても同様かは明らかではない。我々はソマトスタチン投与により内因性のインスリン・グルカゴン分泌を抑制しながら,高インスリン血症正常血糖クランプ法により若齢・1年齢・2年齢と追加で18ヵ月齢のC57BL/6Nマウスのインスリン感受性を測定した。 体重は若齢のみが他2群より小さかったが,精巣周囲脂肪重量は1年齢のみが他2群より高かった。空腹時血糖値は2年齢が若齢よりも低かった。空腹時インスリン濃度は1年齢のみが高かった。 クランプ法では3群のインスリン濃度は同程度になった。1年齢では強いインスリン抵抗性が見られたが,2年齢ではそれが大きく改善された。これらの変化は主に末梢組織への糖取り込み(Rd)で見られ,2年齢でのRdは他2群よりも有意に高かった。 クランプ法の最後に2[14C]デオキシグルコースを静脈ラインから注入し,臓器別の糖取り込みを調べた。その結果,内臓脂肪,骨格筋の一部にて2年齢が1年齢よりも糖取り込みが高かった。 肝臓の中性脂肪含有率は1年齢のみが高かった。 精巣脂肪重量と肝中性脂肪含有率は若齢と2年齢で差はなかったが,Rdは2年齢が若齢よりも高かった。 1年齢から2年齢にかけてインスリン感受性が大幅に改善したため18ヵ月齢でのクランプ法も行った。18ヵ月齢は1年齢と比較し,ブドウ糖注入速度,糖取り込み速度,糖産生抑制率が上昇した。これらは1年齢から2年齢への変化で見られた特徴と矛盾しなかった。 以上より,マウスにおいては中年までは加齢によりインスリン抵抗性が惹起されるが,それ以降は加齢によりインスリン抵抗性は改善することを明らかにした。その変化は主に末梢組織への糖取り込みの変化による。また,これらの変化は内臓脂肪量以外に加齢に伴う変化にも起因すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記研究結果について論文投稿し,reviseとなり追加実験を行い再投稿している。 一般的な常識と異なり,マウスにおいては中年期に生じたインスリン抵抗性が,さらに加齢を重ねると解除されるという新たな事実を見出すことが出来た。 ヒトにおいては加齢に伴いインスリン感受性が悪化すると盲目的に考えられているが,中年からさらに高齢期になったときにさらにインスリン抵抗性が生じるかどうかの明確な証拠はないと考えられる。このため,ヒトにおいても加齢そのものではなく,食事の内容やエネルギー過多によるインスリン感受性の悪化があたかも加齢に伴うインスリン抵抗性の増悪と判断されている可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
加齢による二峰性のインスリン感受性の変化に,それぞれの臓器のFoxOアイソフォームの量や活性がどのように関与しているのかを解析してゆく。また,4種類のFoxOアイソフォームの恒常活性型変異体をインスリン標的臓器のそれぞれに過剰発現させ,加齢に伴うインスリン感受性の変化にどのように影響が及ぼされるかをさらに追及してゆく。
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