人においては中年期以降に2型糖尿病が発症し,また2型糖尿病の主因の1つがインスリン抵抗性であることから,加齢によりインスリン抵抗性が上昇すると考えられている。これに反し,本研究ではマウスにおいては中年期に生じたインスリン抵抗性が老年期に消失することを新たに発見し,米国老年学会機関紙であるThe Journals of Gerontology: Series A (IF=5.1)に発表することが出来た。 マウスの全身および臓器別のインスリン抵抗性を無麻酔・非拘束条件下で測定することが出来る,高インスリン血症正常血糖クランプ法を若齢,中年,老年のマウスに適応したところ,中年期で著明に低下したインスリン感受性が労年期で若齢と同レベルまで回復し,その大部分には筋肉のインスリン感受性の回復が寄与していた。老年期では中年期より体重が減少するが,体重減少とは独立して加齢そのものが筋肉のインスリン感受性を回復することが判明した。 この現象に各種臓器における4種類のFoxOアイソフォームの発現量と活性がどのように関与しているかを,クランプ後の組織サンプルを用いて現在検証しているところである。FoxO4は筋肉の萎縮を増強する主要な因子の1つであることが報告されており,筋肉においてこの転写因子の量やAktリン酸化部位のリン酸化が,加齢によってどのように変化しているかを明らかにすることで,なぜマウスでは中年から老年に至る過程で筋肉のインスリン感受性が回復するのかを解明し,ヒトにおける治療標的の候補を探索する。
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