研究実績の概要 |
セレノプロテインPが褐色脂肪細胞分化に及ぼす影響を検討するため、野生型ならびにSelenop欠損マウスから単離したstromal vascular fractionを用いて、褐色脂肪細胞分化過程における各種マーカー遺伝子の発現を詳細に検討した。その結果、野生型細胞においてセレノプロテインP遺伝子発現は分化誘導後急速に亢進し誘導後2日目にピークに達した後に(分化前に比べて約20倍)、分化完了時には分化前の約9.4倍の発現量となった。分化初期からセレノプロテインP遺伝子発現が誘導されたことから、セレノプロテインPが褐色脂肪細胞分化において重要な働きをしていることが予想された。セレノプロテインP欠損褐色脂肪細胞では、分化過程を通してPparg, Ppargc1a, Cebpb, Fabp4, Ucp1といった代表的なBATマーカー遺伝子の発現は低い傾向にあった。抗酸化タンパクであるセレノプロテインPの欠損によりこれらの遺伝子発現が低下したことは、セレノプロテインP欠損によって高まった酸化ストレスが褐色脂肪細胞分化を傷害したものと考察した。一方で、培養褐色脂肪細胞の分化培地に抗酸化剤N-アセチルシステイン(NAC)を添加すると、分化後のUcp1遺伝子発現や脂肪蓄積が著明に低下した。このことは強力な抗酸化能によって過剰に酸化ストレスを除去することも褐色脂肪細胞分化を障害することを示す。どの程度の酸化ストレス刺激が褐色脂肪細胞分化を促進するのかはさらなる検討を要する。
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