生理的な酸化ストレスが褐色脂肪細胞分化に及ぼす影響を検討するために、初代培養褐色脂肪細胞において分化誘導初期のみ、または全期間、抗酸化剤N-アセチルシステイン(NAC)を処置した。その結果、分化初期のNAC処置により脂肪的蓄積を指標とした褐色脂肪細胞分化は有意に低下し、その低下の程度は分化全期間のNAC処置と変化が無かった。またこのNACの作用は褐色脂肪細胞のみならず初代培養Beige細胞、白色脂肪細胞でも観察された。このことは、分化初期段階での適切な酸化ストレス刺激は、脂肪細胞クラスによらず、脂肪細胞分化の促進に普遍的に必要であることを示唆する。一方でこの時、初代培養褐色脂肪細胞、Beige細胞におけるUcp1、Pparg、Ppargc1の各mRNA発現レベルは分化初期NAC処置とNAC無処置とは変化が無く、全期間NAC処置でのみ著明に低下した。このことは、熱産生脂肪細胞としての機能の獲得のために分化後期段階の酸化ストレスが必須であることを示唆する。 本研究課題全体を通して、過剰な抗酸化能は脂肪細胞の分化を抑制し正常な機能の発現を抑制する一方、抗酸化タンパク質セレノプロテインPのノックアウトもまた脂肪細胞分化を抑制することを明らかにした。正常な脂肪細胞分化には、多すぎず少なすぎない”適度”な酸化ストレス負荷が刺激として必要なのであろう。今後は、脂肪細胞分化を促進/抑制する酸化ストレスの閾値が何処にあるのか探ることで、より詳細に脂肪細胞分化メカニズムが明らかになることが期待される。
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