研究課題/領域番号 |
21K08577
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
南茂 隆生 大阪大学, 医学系研究科, 特任研究員 (50594115)
|
研究分担者 |
小澤 純二 大阪大学, 医学系研究科, 寄附講座准教授 (80513001)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 遺伝・環境相互作用 / 肥満 / 2型糖尿病 / エピゲノム / ゲノム塩基配列 / 疾患感受性座位 / マウス / エクスポソーム |
研究実績の概要 |
2型糖尿病は、多様な原因による症候群と考えられており、病態研究の成果も多岐に亘っている。特に、近年はexposomeといった概念も提唱されており、環境因子の多面性が認識されつつある。私達は、近交系の自然発症2型糖尿病モデルであるKKマウスに特化して、環境因子に対する膵島エピゲノム変化の詳細な検討を重ねた。マウスの単独飼育は、ヒトでは独居に相当すると考えられるが、疫学研究からは、独居が肥満・2型糖尿病のリスク環境であるというエビデンスが蓄積されてきた(Diabetologia. 2021)。9週齢から単独飼育を行った雄性KKマウスは、対照の群飼育個体と比較して、肥満・糖尿病の発症が促進された。これに対し、C57BL/6J系統の場合は、単独飼育群と群飼育群を比較しても体重・血糖値に有意差は認められず、既報(J Takeda Res Lab. 1971)を裏付ける結果が得られた。よって、KKマウスにおける単独飼育の効果は遺伝的に規定されていると考えられた。 エピゲノム状態の検討には、活性のあるシス調節領域(プロモーター・エンハンサー)のマーカーとして知られるヒストン修飾H3K27acを用いた。次世代シークエンサーによって膵島のChIP-Seqを行ったところ、両群間のシグナルが変動するゲノム領域が多数同定され、遺伝子発現変動を介した病態への関与が想定された。そこで、ヒトGWAS(ゲノムワイド相関解析)データベースを参照したところ、糖尿病発症直前の11週齢において単独飼育群で減少するH3K27ac領域には、全疾患・形質の中で2型糖尿病の感受性遺伝子が最も有意に関連していることが明らかとなった。 以上より、環境因子・遺伝素因・疾患感受性座位・エピゲノム変化には相互の関連性が示唆され、同時に、疾患の発症・進展に関与するゲノム塩基配列探索に向けての基礎的検討が可能になったと考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究においては、糖尿病の発症・進展に関与するKKマウスのゲノム多型を適切に選択することが重要である。このためには、単独飼育によって減少するH3K27ac領域を含む膨大な数(約3千)の長距離シス調節領域から絞り込みを行わねばならず、より有力な他の傍証を選択基準として用いる必要があった。ところで、令和3年度はH3K27ac ChIP-Seqデータの再検討を慎重に行い、①単独飼育によるH3K27ac減少と様々なGWAS疾患・形質の感受性座位との重複を検討したが、最も有意だったのは2型糖尿病にほかならなかったこと、②単独飼育による減少H3K27ac領域に高頻度に存在する新たな配列モチーフを見出したことなど、当初予期しなかった観察所見を得た。追加検討には少なからず時間を要したが、有意義であったと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
KKマウスにおいて、単独飼育によるH3K27ac減少は塩基多型に起因する可能性があり、特定の分子メカニズムが関与する可能性を想定しながら検討を進める。これによって、ゲノム編集実験やヒトサンプルの検討を系統的に進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ゲノム編集実験(BACライブラリ作製)、ヒト膵島を用いた検討が遅れている。また、学会はweb参加した。これら実験で使用予定の物品費および旅費等の支出を次年度に繰り越した。
|