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2021 年度 実施状況報告書

視床下部ヘパラン硫酸によるレプチンシグナル伝達制御機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 21K08588
研究機関愛知医科大学

研究代表者

永井 尚子  愛知医科大学, 付置研究所, 助教 (00367799)

研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2024-03-31
キーワードレプチンシグナル伝達 / へパラン硫酸 / 視床下部 / エネルギー代謝
研究実績の概要

哺乳類の中枢神経系にある視床下部は、エネルギーの摂取と消費のバランスを保つために精巧な制御機構を発達させてきた。その中でもレプチンシグナルは、エネルギーバランスに対する反応の仲介役として中心的な役割を担っている。レプチンの細胞内シグナル伝達に関与する、最も長いレプチン受容体であるOb-Rbは、視床下部の背内側核(DMH)と弓状核(ARC)を含むニューロン群に高発現しており、食欲を抑制しエネルギー代謝を調節している。レプチンを投与すると、Ob-Rbを発現するDMHやARCの細胞集団でSTAT3とERKのリン酸化が起こり、交感神経活動を通じて褐色脂肪を活性化し、エネルギー消費や体温上昇を促進する。
ヘパラン硫酸(HS)は、ウロン酸とD-グルコサミン残基からなる2糖単位の繰り返し構造を持つ直鎖状の多糖で、その硫酸化パターンが多くのHS結合分子の結合特異性や結合能を制御している。我々は以前、ヘパラン硫酸6-O-硫酸転移酵素-2(Hs6st2)ノックアウトの雄マウスにおいて、褐色脂肪組織の活性が低下していることを報告した。本研究では、HS6ST2タンパク質がDMHとARCで発現していること、視床下部の6-O-硫酸基を含むHS構造が減少していることを見出した。また、Ob-Rbを発現するNeuro2A細胞において細胞表面のHSをHS分解酵素で消化するとレプチンシグナルが低下することを見出した。以上のことから、視床下部のHSがレプチンシグナル伝達を制御し、エネルギー代謝に影響を与えている可能性が示唆された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

申請者は2021年度に下記(1)から(3)の実験を行い、HSがレプチンシグナル伝達を増強していることを支持する結果を得た。
(1)マウス脳におけるHS6ST2、レプチン受容体の発現部位の解析:絶食後にレプチン投与したマウス脳の冠状切片を作製し、HS6ST2、pSTAT3に対する抗体を用いて免疫染色を行った。視床下部背内側核、弓状核(熱発生や食欲をコントロールするエネルギー代謝の中枢として機能していることが知られており、いずれもレプチンによって活性化される神経細胞が存在する)、縫線核にHS6ST2の染色が観察された。一部のpSTAT3陽性細胞はHS6ST2で染色されていたことから、HS6ST2がレプチンシグナルの制御に関与している可能性が示唆された。
(2)視床下部HS硫酸化の解析:視床下部を含むマウス脳の一部を用いてヘパラン硫酸の二糖構造解析を行った。Hs6st2 KOマウスでは、視床下部の腹側部(ARCを含む)と背側部(DMHを含む)において(N,6)diS、6Sの6-O硫酸基を含む二糖構造がそれぞれ野生型マウスよりもわずかに減少していた。このことから、HS6ST2が視床下部HSの特定の硫酸化構造の形成に関与していることが明らかになった。
(3)HSによるレプチンシグナル伝達制御の証明:培養細胞系の実験 マウス神経芽細胞腫由来Neuro2A細胞にレプチン受容体を発現させた細胞 (Neuro2A-ObRbと命名)を用い、HS分解酵素処理により細胞表面HSをほぼ消失させ、レプチン刺激後、下流シグナルJAK-STAT3, SHP2-ERK1/2, AKTの活性化をウエスタンブロット法で調べた。HS分解酵素の添加により、STAT3、SHP2、ERK1/2の活性化が抑制されたことから、レプチンシグナル伝達をHSが制御していることが支持された。

今後の研究の推進方策

申請者は今後、下記(1)から(4)の実験を行い、レプチンシグナル伝達へのHSの6-O-硫酸基の関与について明らかにする。
(1)HS6-O-硫酸基によるレプチンシグナル伝達制御の検討:Neuro2A-ObRb細胞においてCRISPR-Cas9システムによりHS6ST2をノックアウトし、レプチン刺激後の下流シグナルJAK-STAT3, SHP2-ERK1/2, AKTの活性化をウエスタンブロット法で調べる。これにより、レプチンシグナル伝達にHSの6-O-硫酸基が必要かどうかを検証する。
(2)レプチン・レプチン受容体と結合するHS構造の解析:レプチン、レプチン受容体が結合するHS構造の同定を行うために、FLAGタグ付きレプチン、レプチン受容体と、センサーチップに結合したヘパリンあるいは様々な硫酸化構造を持つHSとの分子間相互作用を表面プラズモン共鳴装置 (Biacore T200) を用いて解析する。これにより結合するHSの硫酸化構造、アフィニティーを決定する。
(3)レプチンシグナル伝達に必要なHSプロテオグリカンの同定:細胞表面のHSはコアタンパク質に結合したプロテオグリカンの形で存在する。レプチンシグナル伝達に関与するプロテオグリカンの種類を同定するために、視床下部のレプチン応答性ニューロンに発現するHSプロテオグリカンを免疫染色法により調べる。HSプロテオグリカンとしては視床下部で発現しているシンデカン-3、シンデカン-2, グリピカン-1, 5を対象とする。
(4)Hs6st2 koマウス脳におけるレプチン取り込みの解析:Hs6st2 koマウス脳においてレプチンの取り込みあるいは拡散が阻害され、レプチンシグナル伝達が低下する可能性も考えられるため、マウスに蛍光ラベルしたレプチンを投与し、脳を薄切、透明化し、蛍光レプチンを多光子顕微鏡にて観察する。

次年度使用額が生じた理由

次年度使用額が生じた理由:リコンビナントレプチンをバルクで購入したところ、当初の購入予定価格よりも低額で済んだほか、コロナの影響で学会参加費、旅費を使用しなかったため。
使用計画:現在準備中の英語論文の英文校正費、リコンビナントレプチンの蛍光ラベルを行うキット、組織透明化キットの購入に支出する予定である。

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公開日: 2022-12-28  

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