1、2年度の研究では、移植予定部位の皮下にGHNFを至適期間留置することによって膵島生着が促進することを明らかにした。そこで本年度は、GHNFに脂肪由来幹細胞(adipose-derived stem cell; ADSC)を付加することで膵島生着効果を増強させるとこが可能かを、マウスモデルで検証した。ADSCを付加したGHNF(AG群)、付加しないGHNF(NG群)、またはシリコンスペーサーのみ(シリコン群)をマウス皮下に6週間留置した後に、皮下膵島移植を行った。移植効率を比較するために標準移植法である門脈内移植と移植成績を比較した結果、AG群が最も良好な血糖変化を示し、治癒率が高かった。また、皮下組織におけるADSCの動態をGFPマウスのADSCを用いて観察した結果、膵島移植時には皮下組織にADSCが存在しなかったことから、ADSCの効果は細胞間接触ではなくパラクライン効果によるものであることが示唆された。トマトレクチンを用いた微小血管の三次元解析では、GHNF留置で形成された被膜内の血管体積がAG群が他群より有意に多く、免疫染色によるvon Willebrand因子の発現解析ではAG群が最も高発現であり、GHNFへのADSC付加が新生血管誘導を増強することが明らかになった。移植部位である皮下組織では、血管細胞接着因子-1(VCAM-1)やヘパラン硫酸、血管内皮増殖因子A (VEGFA)等の遺伝子発現がNG群よりもAG群で増加し、膵島保護因子であるIGF-2の発現はAG群とGHNF群がシリコン群よりも高いことも判明した。 本年度の検証から、皮下膵島移植においては、ADSCの付加がGHNFの膵島生着促進効果が増強し、門脈移植を超える移植成績をもたらすことが明らかになった。その作用機序としては皮下移植部位における新生血管構築、膵島保護因の関与が示唆された。
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