研究課題/領域番号 |
21K08607
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
升谷 耕介 福岡大学, 医学部, 教授 (30419593)
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研究分担者 |
中野 敏昭 九州大学, 大学病院, 准教授 (10432931)
土本 晃裕 九州大学, 大学病院, 助教 (50572103)
上杉 憲子 福岡大学, 医学部, 准教授 (70279264)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 腎移植 / 移植腎病理 / 免疫応答 / 免疫組織化学 |
研究実績の概要 |
データセットが完成した腎移植症例数は258例であった。これらの症例の1年定期生検について、全標本で病理学的評価を行った。細胞集塊は100個以上の単核球で集塊の中に萎縮尿細管を含め尿細管が存在しないものと定義した。免疫組織染色を行いこの細胞集塊がB細胞クラスターであることを確認した。集塊は部位により被膜下、傍血管、傍糸球体に分けて記録したが、大部分が傍血管領域に局在し、以後の解析は傍血管病変(以下perivascular aggregate, PVA)を対象に実施した。PVAと共存する病理診断および個々の移植腎病変はBanff2017分類に基づいて評価し、PVAの有無と移植腎生着との関連も検討した。その結果、PVAは対象の81例(31.4%)に認めた。PVA陰性群と比べPVA陽性群では拒絶反応の既往例が多く(32.1% vs 12.4%, P=0.0003)、以下のBanffスコアに有意差を認めた:tiスコア(1.3 ± 0.8 vs. 0.6 ± 0.8, P<0.0001)、iスコア (0.7± 0.8 vs. 0.2 ± 0.5, P<0.0001)、i-IF/TAスコア(1.3 ± 1.2 vs. 0.7 ± 0.9, P<0.0001)、tスコア(1.4 ± 1.1 vs. 0.6 ± 0.9, P<0.0001)、ciスコア(1.2 ± 0.9 vs. 0.9 ± 0.9, P=0.01)。PVA陽性例の病理診断は拒絶なし49.4%, 慢性活動性T細胞関連拒絶21.0%、ボーダーライン変化18.5%、急性T細胞関連拒絶6.2%であった。PVA陽性例の診断は陰性例と比べ慢性活動性T細胞関連拒絶の頻度が高かった(21.0% vs. 4.0%, P<0.0001)。PVA陽性例と陰性例の移植腎生着率を全症例、拒絶あり、拒絶なしに分けて検討したがいずれも差を認めなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
対象症例は若干増加した258例で確定し、電子カルテから抽出した臨床情報と、Banff2017分類に基づく移植腎病理診断名と個々の移植腎病変に関するデータセットは2021年度に完成している。2022年度は対象例のより具体的な病理学的評価を行い、目的病変である細胞集塊、中でもPerivascular病変(PVA)の出現頻度について評価を行った。その頻度は1年定期生検においても、過去の国内外から出された報告と概ね一致しており、その評価は妥当であったと考えている。今回移植腎病変をBanff2017分類という新しい組織分類に基づいて評価した。この分類を用いた理由であるが、Banff2017年分類から慢性活動性T細胞関連拒絶の診断基準が大きく変化しているためである。さらに、PVA病変は2023年度に全症例に対して実施した免疫組織染色でB細胞クラスターであることも確認できている。PVA病変の出現に関与する因子、PVA病変と共存する移植腎病理診断名と個々の移植腎病変(主にT細胞関連拒絶反応と関係が深いもの)についても統計学的に有意な因子として抽出することができた。しかしながら、PVA病変の存在と移植腎予後との関連については、アウトカムを移植腎機能喪失(透析再導入)とした場合、有意な傾向は見られなかった。これはPVA病変発生の背景がドナー腎の加齢、特に献腎移植における虚血再灌流障害、そして今回有意に検出された活動性T細胞関連拒絶など、多彩な要因により形成されたものである可能性があること、あるいはイベント発生が少なく、関連性を検出できなかった可能性があると現段階では考察している。追加の方法として、腎アウトカムの定義を変更して同様の評価を行うこと(移植腎機能喪失あるいは血清クレアチニン値の倍化の複合アウトカムを設定)を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
臨床情報をまとめたデータセットは完成し、光学顕微鏡組織を用いた評価を行い、免疫組織化学染色も既に完了している。PVA病変が当初想定していたB細胞による集塊であることも確認できた。さらに濾胞樹状細胞のマーカーでも染色を行っており、病変としてより進行した三次リンパ濾胞化している群とそうではない群があることも確認しており、2群に分けたサブ解析も行う予定であるが、現在のところ、2023年度までに得られた研究結果に基づき、学会発表と論文化を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究期間における成果発表に関して、全世界において新型コロナウイルス感染が流行し、国際会議を含め海外への渡航が著しく制限された。その結果、本研究成果の国際学会における発表が行えない、あるいは参加できる学会が制約され、発表の機会が遅れた。論文化を進める上で、そのための費用である英文校正費、投稿費、掲載費が2024年度にずれこむことが避けられなかったため、今回次年度使用額を計上させて頂くことになった。
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