腹膜は体腔や肝臓・胃・大腸・小腸などの内臓表面を覆っている組織であり、一層の中皮細胞とその下の疎な結合組織とで構成されている。中皮細胞はムコ多糖類を細胞表面に発現することで、臓器間や臓器・体腔間の摩擦を減らして、癒着を防ぐことが知られている。また近年、様々なサイトカインを分泌することで抗炎症・組織修復作用などを発揮することや胎生期型の肝中皮細胞が肝実質の前駆細胞である肝芽細胞の増殖促進因子を大量に産生して肝臓の発生を促進することなどが明らかとなってきた。 原発性肝がん・転移性肝がんに対する治療法として「繰り返し肝切除」は生存期間の延長や根治を期待しうる方法としてその有効性が広く認められている。しかしながら「繰り返し肝切除」をおこなう際の問題点として、術後肝不全リスクと術後癒着という2つの問題点が挙げられる。これらの問題点を解決することで患者予後の更なる改善につながることが期待される。申請者らは上記のような中皮細胞の多彩な機能に着目し、中皮前駆細胞の移植によってこれら2つの問題点が解決しうることをマウス肝切除モデルを用いて示した。さらにiPS細胞から中皮前駆細胞への分化誘導系を確立し、iPS細胞由来中皮前駆細胞の移植でも同様の効果が得られることを示している。 より機能的なヒトiPS細胞由来中皮前駆細胞を作成するためにヒト中皮細胞の特性を深く理解することが必要不可欠であるが、本年度は、ヒト臨床検体からの中皮細胞の分離培養法を確立した。また、中皮細胞移植の適応疾患拡大のために、マウス腹膜硬化症モデルの作成をおこなった。
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