研究課題
末期腎不全患者は世界的に増加傾向であり、わが国でも患者のQOLや残存腎機能活用の観点から腹膜透析の普及推進が謳われるようになったが、全透析患者の3%前後を占めるに過ぎない。腹膜透析の普及に対する最大の障壁が、腹膜硬化症や腹膜機能低下などの合併症に対する懸念であるが、効果的な対処法がないのが現状である。本研究では、これらの病態に対する新規治療法の開発を目的に、iPS細胞から機能的な中皮前駆細胞を作成して、腹膜硬化症モデルマウスに対する細胞移植の治療効果を検討する。腹膜は体腔や肝臓・胃・大腸・小腸などの内臓表面を覆っている組織であり、一層の中皮細胞とその下の疎な結合組織とで構成されている。中皮細胞はムコ多糖類を細胞表面に発現することで、臓器間や臓器・体腔間の摩擦を減らして、癒着を防ぐことが知られている。また近年、様々なサイトカインを分泌することで抗炎症・組織修復作用などを発揮することや胎生期型の肝中皮細胞が肝実質の前駆細胞である肝芽細胞の増殖促進因子を大量に産生して肝臓の発生を促進することなどが明らかとなってきた。これまで、iPS細胞から中皮前駆細胞への分化誘導系を確立して、iPS細胞由来中皮前駆細胞の移植をすることで術後癒着の防止や肝再生に有用であったことを報告した。より機能的な中皮前駆細胞を作成するためにヒト中皮細胞の特性を深く理解することが必要不可欠であるが、今年度は引き続き、ヒト臨床検体から分離培養したヒト中皮細胞の特性解析をおこなった。また、腹膜硬化症モデルマウスを作成して、移植実験をおこない、その治療効果等に関しても検討をおこなった。
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BIO Clinica
巻: 38 ページ: 983-986