研究課題
臓器移植後の免疫抑制療法では、患者個々の免疫応答の客観的評価の上で調整し得るプロトコールは未だ確立されていない。特にウイルス感染症を合併する場合では、拒絶反応の予防・治療目的で使用される免疫抑制剤がウイルスの複製を増長することが懸念され、必要最小限の免疫抑制療法を実施することが重要と考えられる。我々は、免疫モニタリング法としてCFSE-MLR assayを臨床導入してきた。研究期間において、臓器移植後Covid感染となった腎臓移植7症例についてCFSE-MLRアッセイを用いて抗ドナー応答性を解析した。術後感染を認めた7症例においてCovid感染前のCFSE-MLRによる抗ドナー(D)および抗サードパーティ(T)に対するStimulation IndexはCD4T細胞(D:2.36±1.86vsT:2.91±2.17),CD8T細胞(D:2.65±2.22vs4.86±4.82)であり、免疫抑制状態に大きな変化は示さなかった。また、SARS-CoV-2感染後の重症化において、制御性T細胞(Treg)におけるFoxP3の誘導が阻害される場合には免疫制御が働かず、過剰免疫反応によるサイトカインストームとの関連が指摘されていることから、FoxP3の遺伝子多型(3279 A/C)を解析したが、特徴的な所見は得られなかった。今後症例の蓄積が必要と考える。今回の解析において、Covid感染によって、臓器移植後の抗ドナーT細胞応答に大きな影響は特に見られず、定期的な免疫モニタリングによって移植後の免疫抑制療法が維持できると考えられた。また、基礎研究の結果、mTOR阻害剤や核酸合成阻害剤にはSARS-CoV-2ウイルスの増殖を抑制する効果を認めた。これらの免疫抑制剤はTreg細胞の誘導・維持に関わる機能を有する報告もあり、Covid感染における術後免疫抑制療法に有用である可能性が示唆された。
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