研究課題/領域番号 |
21K08626
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
井上 成一朗 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (70431690)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 神経芽腫 / 小児悪性腫瘍 / 腫瘍免疫 / 免疫チェックポイント阻害 / NK細胞 / CD69 陽性リンパ球 |
研究実績の概要 |
マウス神経芽腫モデルを用いて、腫瘍に対し抗PD-1/PD-L1抗体による免疫チェックポイント阻害療法を施行した際の免疫反応に関して、腫瘍に浸潤する免疫細胞解析を基づきそのメカニズムの解明を試みた。 神経芽腫を自然発症するTH-MYCNトランスジェニックマウスでは腫瘍細胞表面にPD-1分子の発現を認め、このPD-1抗原が抗PD-1 抗体による免疫療法のターゲットになることを報告した(Takeuchi et al 35th International Symposium of Pediatric Surgical Research 2002, Takeuchi et al Pediatr Surg Int. 2022). さらに、マウス神経芽腫細胞株neur-2aを用いた研究で、皮下の腫瘍結節を形成したマウスに抗PD-1/PD-L1抗体投与を行うと、腫瘍増殖抑制効果が得られることを確認し、その際腫瘍組織には①CD69分子を発現した活性化CD8陽性リンパ球(井上他 第59回日本小児外科学会学術集会)及び②CD49陽性natural killer (NK)細胞(Inoue et al 54th congress of the International Society of Pediatric Oncology)が浸潤していることを報告した。これら抗腫瘍効果を持つ免疫細胞の腫瘍浸潤と腫瘍重量と負の相関を認めるため、抗体治療による抗腫瘍免疫反応において重要な役割を果たしていると考えられた。 この2種の重要な免疫細胞が腫瘍組織の微小環境(TME:Tumor Micro environmenet)において相互作用を及ぼしながら、抗腫瘍免疫反応の主役を担っていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨床における神経芽腫に対する免疫チェックポイント阻害療法は、成人の各種悪性腫瘍に対する治療効果と比較して十分な効果が得られにくいことをが報告されている。今回我々が得られた研究結果で得られた結果から、神経芽腫に対する免疫チェックポイント阻害療法で得られる抗腫瘍免疫反応には、複数の免疫細胞が関与していること、またこれらの免疫細胞の腫瘍浸潤数が抗腫瘍効果に大きな影響を与えることを示すことができた。この成果は、研究計画作成時点で研究2年目までに得たいと考えていた成果であり、研究はおおむね順調に進展していることを示している。 今後、さらにこれら免疫細胞の相互効果のメカニズムを解析し、免疫細胞の腫瘍浸潤を促進するメカニズムを解析することで、目標であるより有効な新規免疫チェックポイント阻害療法の開発に繋げていくことが可能と考えられ、順調な研究の進行を見込むことができている。
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今後の研究の推進方策 |
一般にNK細胞は、抗原に対する免疫反応に前感作を必要としない自然免疫細胞に分類される。一方活性化したCD69陽性リンパ球はT細胞を主役とする獲得免疫による免疫反応に分類される。両社は異なるメカニズムで抗腫瘍反応を引き起こしていると考えられ、それぞれの腫瘍浸潤を促進するメカニズムを解明することが、さらに有効な抗体治療を開発するために重要である。さらに、NK細胞とCD69陽性リンパ球の相互作用の有無とそのメカニズムの解析は、これら免疫細胞の腫瘍浸潤をお互いに促進する方法を導きだす可能性がある。メカニズムの解明はNK細胞とCD69陽性リンパ球の浸潤が相加効果、相乗効果を及ぼす可能性がある。 また、抗PD-1/PD-L1抗体による免疫チェックポイント阻害療法は、co-stimulatory moleculeを介した免疫反応を遮断するが、腫瘍抗原を認識して免疫反応を誘導する主の免疫情報伝達に関与していない。従来の免疫チェックポイント阻害療法に、腫瘍抗原をターゲットにした免疫反応を誘導する抗体治療を組み合わせる併用療法は、抗PD-1/PD-L1抗体投与による抗腫瘍療法にさらなる効果を誘導することが予測される。 以上より、今後は以下の3項目を主たる研究主題として研究を推進していく予定とする。 ①抗PD-1/PD-L1抗体投与によるCD69陽性リンパ球、NK細胞の腫瘍浸潤のメカニズムを解析し、それぞれの細胞の腫瘍浸潤を促進するFactorを見出す②CD69陽性リンパ球、NK細胞の抗腫瘍免疫反応の相互作用を解析し、両細胞の腫瘍浸潤を促進する新たな免疫治療法開発のデータを得る③リンパ球、NK細胞による腫瘍免疫反応を誘導する、腫瘍抗原をターゲットとした免疫治療法を組み合わせ、神経芽腫に対する新しい免疫チェックポイント阻害療法プロトコールの開発を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
順調に研究経費を執行しているが、最終的に8,766円の残金が発生した。主たる研究費は投与抗体やフローサイトメーター施行用の染色抗体であり、これらは残金額と比べ一桁前後多い。少額の残金は繰り越して新年度の研究経費と組み合わせることでより有効な研究費執行に繋がると判断し、繰り越すことにしたため次年度使用額が生じた。研究用抗体購入に充てて有効使用する予定である。
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