研究課題/領域番号 |
21K08635
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
渡辺 正明 北海道大学, 医学研究院, 特任講師 (40789848)
|
研究分担者 |
後藤 了一 北海道大学, 大学病院, 講師 (10645287)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 膵島移植 / 免疫寛容 / 細胞移植 |
研究実績の概要 |
膵島移植は、膵臓移植と遜色のない移植成績が得られつつあるものの、現状の免疫抑制法では、長期生着は得られていない。本研究では膵島移植、細胞移植における、移植された細胞の長期成績の劇的な向上をめざす新たな治療法として、ドナー抗原特異的な免疫抑制性細胞の治療効果を検討し、臨床応用へ繋げる基礎研究である。 これまでに我々は、肝移植臨床試験で用いた方法(Hepatology 2016, Bashuda H, JCI 2005) に準じ、ドナー抗原特異的な免疫抑制性アナージー細胞を誘導した。今後の臨床応用を目指し、CTLA4-Ig細胞数とドナー抗原細胞数の比率、使用する抗体、培養期間を検討し、ヒト末梢血リンパ球(PBMC)5.0x106細胞を2.0x106ドナー抗原と40 μg/106 cells濃度のCTLA4-Igを14日間の共培養条件とし、ドナー抗原特異的な免疫抑制性アナージー細胞が誘導されることを報告した。(Cell Transplantation. 2018 Nov; 27(11): 1692-1704)本研究ではこれに引き続き、膵島移植は細胞移植にこれら細胞治療を応用する基礎的実験として、マウス細胞における、免疫抑制性細胞の誘導を行い、その可能性を検証した。マウス脾臓細胞、抗CD80抗体、抗CD86抗体を用いて誘導を試みた。大変興味深いことに、我々が誘導した免疫抑制性細胞には、特に膵島移植においては重要な治療法となりうる、抗炎症効果があることが見出された。その効果は、マウスモデルにて、誘導された免疫抑制精細胞を、マウス膵島移植モデルを用いて検証を行った。これらの結果は、国際膵臓膵島移植学会、日本膵膵島移植学会にて報告するとともに、現在も臨床膵島移植鬼応用するための機序解析を行なっている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞数、ドナー抗原細胞数との比率、使用する抗体、培養期間は誘導される細胞の特性に深くかかわる(Davies JK et al, Cell Transplant. 2012)。我々の臨床試験で用いた方法(Yamashita K, Goto R, Watanabe M Hepatology 2016, Bashuda H, JCI 2005)に準じ、我々は既にマウス脾細胞を用いた基礎的研究を開始しているが、培養細胞数、抗CD80/CD86抗体濃度、培養期間が細胞特性にどのように影響するかをマウス脾細胞、ヒト末梢血単核細胞;PBMCs、抗CD80/CD86抗体を用いて検討した。さらに、誘導細胞のphenotypeをFACSで検証し、ドナー抗原に対する免疫抑制効果は、MLRに誘導細胞を添加することで検証し、効果的な免疫抑制細胞誘導法を確立することができた。 誘導された細胞を膵島、マクロファージ(RAW 264.7cell)や、Kupffer細胞と共培養し、膵島数、肝細胞数の変化、細胞傷害の指標となるHMGB1、マクロファージ・Kupffer細胞の活性変化(IL-6, IL-12, TNF-α産生)をFACS、ELISA、PCRで検証し、誘導された細胞の膵島、肝細胞、炎症担当細胞への影響、効果を検討し、再現性を持って抗炎症効果を確認することができた。既報の研究方法(Watanabe M, Transplantation 2016)に準じ、誘導細胞を同種同系マウス膵島移植や肝細胞移植モデルのレシピエントに輸注し、移植後早期の細胞傷害に対する誘導細胞の効果を検討した。
|
今後の研究の推進方策 |
我々が輸注した免疫抑制性細胞は、レシピエントから得られたリンパ球をドナー抗原、抗CD80/CD86抗体(2D10.4/IT2.2)と共培養し誘導された。広く臨床認可されうる免疫抑制性細胞の誘導条件(臨床認可抗体、GMPグレードでの精製)の確立のため、CD28-CD80/CD86副刺激経路を遮断するCTLA4-Igに着目し、CTLA4-Igが2D10.4/IT2.2と同等な免疫抑制性細胞を誘導することを示し(Watanabe M et al, Cell Transplantation, 2018)、この細胞治療が広く臨床応用可能なプロトコルであることを示した。本研究を通して、これら我々が用いてきた細胞には、免疫抑制性効果のみならず抗炎症効果も有することが示された。さらに、本研究での齧歯類を用いた移植、今後予定される霊長類移植モデルでの有用性が示されれば、臨床膵島移植、臨床肝細胞移植での有用性を強く示唆する知見になると考え、現在その準備が進められている。 臓器移植後の免疫寛容誘導は、移植医療における長年の夢であり、これまでにも多くの研究がなされてきた。免疫寛容誘導には、臓器移植に骨髄移植を併用することで、Hematological mixed chimerismを誘導し中枢性に免疫寛容(central tolerance)を誘導する方法がある。臨床腎臓移植で有用な結果が報告(Kawai, et al, N Engl J Med, 2008)されているが、一方で、GVHDのリスクも伴い、広く臨床応用可能な免疫寛容誘導法とはなっていない。一方、我々が臨床試験で行なった、Treg、Breg、DC、MSCといった免疫抑制性細胞を輸注(adaptive transfer)する方法は、抹消レベルで免疫抑制状態(peripheral tolerance)を誘導する方法(operational tolerance)であり、目的とする細胞を選択的に輸注することができる。今後、臨床膵島移植で我々の細胞治療を実現するために、さらに研究を進めている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
概ね当初の計画通り進んだものの、抗CD80/86抗体が、共同研究施設より供給されているため、その供給によって実験を進めることが困難になることがあり、最終年度に必要な実験が完了できない事情がありました。 細胞の抗炎症効果をvivoで確認する部分で、供給された抗体を用いて免疫抑制精細胞を誘導し、その抗炎症効果を確認する計画です。
|