研究実績の概要 |
【背景】腫瘍微小環境における肥満細胞(Mast cell:MC)のPro-tumor effectが明らかになりつつある。最近ではMCがTumor associated macrophage(TAM)の遊走を介して腫瘍悪性度に寄与することが報告され、腫瘍免疫との関係が示唆された(Nat Commun. 2019)。しかしながらMCと放射線化学療法(CRT)抵抗性についてはほとんど報告がない。今回研究代表者は腫瘍微小環境におけるMC浸潤がCRT治療効果と相関し、予後と関連する結果を得た。 【方法】1) 当科で術前CRTを施行した下部直腸癌95例を対象とし、MC marker, tryptase , TAM marker, CD206 , MDSC marker, CD33の免疫染色を行った。癌部粘膜固有層間質におけるMC、TAM、MDSC数をで算出し、MCの浸潤とCRTの治療効果を含む臨床病理学的因子との相関を検討した。 【結果】1) MC高浸潤群でGrade1a,1bのnon-responderが多く、TAMの高浸潤を認めた。MDSCの浸潤とは相関を認めなかった。MC高浸潤群は低浸潤群と比較してOSで有意差を認めなかったが、DFSにおいて有意に予後不良であった。DFSにおいて多変量解析でもMS高浸潤は独立予後不良因子であった。 【結論】 下部直腸癌症例におけるMC浸潤はCRTの治療抵抗性、TAMの浸潤と正の相関を示し、DFSにおいて独立予後不良因子であった。MCはCRT抵抗性直腸癌の新たな治療のtargetになりうる。腫瘍微環境構築の根幹となる肥満細胞をtargetとした難治性癌の治療戦略確立を目指すことは社会的にも意義のあることであり、癌人口が増加の一途をたどる現状を考慮すると、腫瘍微小環境攻略の糸口となる治療法開発による学術的、臨床的、経済的恩恵は計り知れないと考えられる。
|