研究課題/領域番号 |
21K08652
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
長田 拓哉 東邦大学, 医学部, 准教授 (40303242)
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研究分担者 |
田中 京子 東邦大学, 医学部, 教授 (10286536)
岡本 康 東邦大学, 医学部, 臨床教授 (80213990)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アスナロ / ツヨプセン / レモングラス |
研究実績の概要 |
アスナロ精油を胃癌、食道癌、大腸癌、乳癌細胞とそれぞれ反応させたところ、いずれの細胞に対しても細胞死を誘導した。またアスナロ精油の蒸散成分による細胞死が確認された。アスナロ精油を分画し、精油中の抗腫瘍因子としてツヨプセンを同定した。ツヨプセンを癌細胞に投与し、癌細胞に細胞死を誘導することを確認した。ツヨプセンはセスキテルペンであり、分子量が小さく蒸散成分は容易に飛散し得る。アスナロ精油を蒸散させた際における、空気中のツヨプセン濃度を測定し、細胞死を誘導するためには100pg/ml以上の濃度が必要であることが確認された。また正常細胞(正常人末梢血液中リンパ球細胞)にアスナロ精油を投与した際には癌細胞と比較して細胞死が誘導されにくことを確認した。次にDARTS法を用いて、ツヨプセンが癌細胞内でPKM2と結合することを確認した。PKM2は癌細胞における嫌気的解糖経路に働き、転移、増殖に必要な大量のエネルギーとその副産物である尿酸を産生するために重要な分子である。癌細胞にツヨプセンを反応させると尿酸の産生が低下することを確認した。これらの結果から、アスナロ精油中に存在するツヨプセンが癌細胞内でPKM2と結合し、癌のエネルギー産生経路をブロックすることにより、癌に細胞死を誘導することが明らかとなった。 アスナロ精油以外に癌細胞に細胞死を誘導する精油としてレモングラスに着目し、研究を行なった。レモングラスオイルを乳癌細胞に投与したところ、強力な細胞死誘導効果を確認した。またレモングラスの蒸散成分における抗腫瘍効果を確認した。レモングラスの蒸散成分を投与することにより、乳癌細胞の浸潤能、移動能が低下した。レモングラスは、モノテルペンで分子量が小さいcitralを多く含有している事から、citralの抗腫瘍効果について検討したところ、citralの蒸散成分に強い抗腫瘍効果が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アスナロ精油の抗腫瘍効果に関する研究はデータ解析がほぼ終了し、現在論文作成中である。本研究にてアスナロ精油に種々の癌細胞に対する抗腫瘍効果があることを明らかにした。またアスナロ精油の蒸散成分に抗腫瘍効果が存在する一方で、正常細胞に対する細胞毒性は低いことが確認された。アスナロ精油中の抗腫瘍因子としてツヨプセンを同定し、ツヨプセンが癌細胞内でPKM2と結合することを明らかにした。PKM2は癌細胞に特有な嫌気的解糖経路(ワールブルグ効果)に重要な因子であり、ツヨプセンがPKM2の働きを抑制し、癌細胞のエネルギー産生をストップさせることにより細胞死を誘導するメカニズムを明らかにした。精油の蒸散成分における抗腫瘍効果を示した論文は他に見られず、意義のある研究と考えている。 またアスナロ精油以外に抗腫瘍効果のある精油について検討した。これまでに48種類の精油について検討を行い、レモングラスの精油に強力な抗腫瘍効果を認めた。またレモングラス精油の蒸散成分にもアスナロと同様に高い抗腫瘍効果を認めた。レモングラスの抗腫瘍メカニズムについて今後研究を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
レモングラスによる抗腫瘍メカニズムを明らかにする。レモングラスは抗菌作用を持ち、東南アジア諸国では食材としてよく用いられており、抗腫瘍効果に関する報告も見られている。レモングラスに多く含まれているcitralはモノテルペンで分子量が小さく、飛散しやすい成分である。これまでにcitralが抗腫瘍効果を持つことを確認しており、citralの抗腫瘍メカニズムについて研究を行う予定である。またcitral以外の成分についても検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品購入を次年度に繰り越した。コロナ禍で海外学会参加が無くなった。次年度は試薬の購入、レモングラスの解析費用、学会参加、論文作成の費用に使用する予定である。
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