研究課題
大腸癌の発生・進行においてMAPK経路は重要な役割を果たしており、BRAFやRASなどの遺伝子変異によって活性化されることが知られている。MAPK経路の下流にあるERKを阻害するERK阻害薬(SCH772984)は、BRAFやKRAS変異のある癌細胞株に増殖抑制効果が示されているが、ヒトに対する有効性は証明されていない。一方、組織をin vitroで再現する技術としてオルガノイド培養が近年開発され、その薬剤感受性試験は臨床経過と相関すると報告されている。本研究では、大腸癌組織におけるMAPK経路の遺伝子変異がオルガノイドによるSCH772984の感受性を規定するかどうかを検証した。はじめに、14種類の大腸癌細胞株を用いて、SCH772984の薬剤感受性試験を行った。その結果、全てのBRAF変異細胞株で感受性を認めたが、KRAS変異細胞株は半数が耐性であった。次に、大腸癌切除検体を用いてオルガノイド培養を行った。腫瘍と対になるオルガノイドの遺伝子変異を次世代シークエンス(NGS)を用いて解析した結果、腫瘍で検出された遺伝子変異の98~99%がオルガノイドと重複していた。13症例の大腸癌切除検体より培養したオルガノイドに対してSCH772984の薬剤感受性試験を行ったところ、BRAFまたはKRAS変異症例の7例中6例がSCH772984に感受性を示し、BRAF・KRAS野生型の6例中5例は耐性であった。BRAF・KRAS遺伝子変異の有無により、オルガノイドのSCH772984感受性を予測できる傾向を認めたが、必ずしも一致しない症例も存在しており、遺伝子変異に基づくアプローチはあくまでも感受性予測に留まると考えられた。オルガノイドによる薬剤感受性試験は遺伝子変異に基づく治療戦略の限界を補填し、より精度の高い個別化医療へ貢献できる可能性を秘めていると考えた。
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Cancer Medicine
巻: 13 ページ: -
10.1002/cam4.6992
https://www.ingem.oas.tohoku.ac.jp/archives/591