研究課題/領域番号 |
21K08684
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
堀 裕一 神戸大学, 保健学研究科, 教授 (80248004)
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研究分担者 |
清水 一也 神戸大学, 保健学研究科, 保健学研究員 (50335353)
三好 真琴 神戸大学, 保健学研究科, 講師 (50433389)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 膵臓癌 / エクソソーム / 遠隔転移 |
研究実績の概要 |
研究の全体構想は膵癌細胞の遠隔転移機構を明らかにして新規治療法を創出することである。膵臓がんは5年生存率が10%以下と固形がんで最も予後不良であり、遠隔転移や局所浸潤が予後を左右する。本研究では膵癌細胞が分泌するエクソソームに着目して遠隔転移の分子機構を明らかにすることを目的とする。我々はすでに抗がん剤Gemcitabine(GEM)に耐性の膵癌患者から10種類の膵癌幹細胞株を樹立し、細胞外基質を再構築することで自己複製能を獲得することを報告し(PLoS One, 2013)、これらの細胞をマウスに移植した腫瘍でもGemcitabine耐性を持つことを示した(Pancreas, 2019)。一方、CD133陽性マウス膵臓組織幹細胞にGreen Fluorescent Protein、変異型KRASG12D、変異型p53、cyclin dependent kinase 4を遺伝子導入してマウス人工膵癌細胞(親株)を作成し、in vivoで作成した親株由来腫瘍にGEMを長期投与することにより、耐性を獲得した腫瘍からGEM耐性株を樹立した(投稿準備中)。本研究では、我々が樹立した①ヒト膵癌幹細胞株や②マウス人工膵癌幹細胞株由来のエクソソームを使って転移の初期段階の分子機構を明らかにする。初年度は、ヒト膵癌細胞株由来のエクソソームが膵癌細胞自身に上皮間葉転換を誘導することで転移の初期段階を再現できることを報告した。またこの分子機構にはTGF-b1が部分的に関与していることも明らかにした(Hori Y et al.Med Mol Morphol. 2022)。次年度は、エクソソーム投与後に癌細胞を移植することでin vivoにおいて転移が亢進するかどうかを検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) ヒト膵臓がん由来のエクソソームが転移初期に及ぼす影響について:ヒト膵癌細胞株(KMC, AsPC-1, PANC-1)由来のエクソソームが自身の癌細胞に上皮間葉転換を誘導すること、その分子機構にはエクソソーム内のTransforming growth factor-beta1が部分的に関与していることを見出し報告した。(Hori Y et al. Med Mol Morphol, 2022)。この結果から、膵癌転移の超初期にエクソソームによる上皮間葉転換が起こった細胞がコロニーから遊離して転移を起こせる可能性を示した。 (2)ヒト膵癌幹細胞由来のエクソソームによるpre-metastatic nicheの形成: GFP遺伝子を導入したヒト膵癌幹細胞株由来のエクソソームを免疫不全マウスの脾臓・肺に注入し、その後に同じ経路から膵癌細胞を注入し、臓器を摘出してGFP染色で転移巣を検討したところ、コントロール(胆汁性肝硬変患者腹水中)エクソソームと比較して肝臓や肺転移の亢進が見られた(Hori Y et al. Exosomes in ascites from patients with human pancreatic cancer enhance remote metastasis partially through endothelial-mesenchymal transition, Pancreatology in press, 2023)。さらに、CD133陽性マウス人工膵癌幹細胞株由来のエクソソームを使った同様の実験でも遠隔転移の亢進を認めた。また、エクソソームによる転移亢進機構には血管内皮細胞間接着分子の発現低下を伴う内皮間葉転換を介した血管透過性の亢進が関与することが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、我々が樹立作成した(1)ヒト膵癌幹細胞株(PLoS One, 2013; Pancreas, 2019)や(2)がん遺伝子導入により作成したマウス人工膵癌幹細胞株を使って再現性の高い遠隔転移モデルを構築し、その分子機構を明らかにして、転移抑制の新規治療薬の開発を目指す。初年度の実績から、ヒト膵癌幹細胞株またはGEM耐性マウス人工膵癌細胞由来のエクソソームが膵癌細胞の上皮間葉転換を介して遠隔転移を亢進することがin vivoやin vitroで明らかになった(Med Mol Morphol, 2022)。2年目には、エクソソームが部分的に誘導した血管内皮間葉転換を介して血管透過性が亢進し、その結果、pre-metastatic nicheが形成され、膵癌細胞のextravasationやcolonizationを促進させることが明らかになった(Pancreatology, 2023)。今後はエクソソームがどのような機序で血管外への膵癌細胞のextravasationを誘導するのか、さらには、血管外で膵癌細胞がコロニーを形成するために内皮間葉転換を起こした血管内皮細胞を利用して腫瘍血管を構築し、遠隔転移巣を構築する機序についても検討する予定である。この実験ではヒト臍帯静脈内皮細胞やマウス脳微小血管内皮細胞を使って検討する。一方、マウス人工膵癌細胞では親株由来のエクソソームに比べてGEM耐性株由来エクソソームで転移が亢進したことから(投稿準備中)、マイクロアレイによる網羅的な解析を加えて、転移促進分子を明らかにする予定である。本研究計画が遂行されれば、転移阻害剤の開発へと繋がり膵癌の予後を改善できると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症により、学会活動も国内で開催される国際学会にのみ参加したため、旅費の使用が少なかった。一部は物品費として使用したが繰越金が生じた。
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