研究実績の概要 |
肝虚血再灌流障害は、肝移植や拡大肝切除において術後合併症の原因として問題である。(1)肝移植モデルのIsolated Perfused Rat Liver装置では、ラット肝臓を摘出後に生理的緩衝液を灌流することで障害が誘導される。肝組織では、多くの炎症性サイトカイン・ケモカインや抗酸化、ヒートショック関連の抗ストレス性遺伝子が有意な発現変動を示した。iNOSセンスオリゴを投与することで、緩衝液の肝逸脱酵素活性や肝臓のiNOS mRNA発現が低下し、肝保護効果が示唆された。 (2)拡大肝切除後障害として、ラットで肝流入血流遮断(Pringle maneuver; PM)による虚血の後に肝切除(PH)を行い再灌流するPM+PHモデルで肝障害が誘導される。血中の肝逸脱酵素活性やNO量が増加し、肝組織の炎症関連遺伝子発現が上昇するが、iNOS アンチセンス転写物発現を抑制する生薬主要成分や機能性食品により抑制された(Int J Mol Sci, 2024; Nutrients, 2024; Mol Biol Rep, in press)。また、アポトーシスや好中球浸潤などを含む肝組織障害の病理的所見を緩和して致死的条件下での生存も延長した。さらに機能性食品は1日後の肝再生を促進した。これらの生薬成分や機能性食品の肝保護効果が示された。 PM+PHモデルの肝臓において、mRNAマイクロアレイを用いてmRNA発現を網羅的に解析した結果、血管拡張や炎症、免疫抑制に関わる物質の代謝経路を構成する遺伝子発現が変動していた。そのため、代謝経路の律速酵素遺伝子Aに着目した。ラット初代培養肝細胞では、Aのアンチセンス転写物が発現しており、Aに対するセンスオリゴXを設計してAの発現制御を検討した。また、PM+PHモデルではmRNA発現が誘導されており、センスオリゴXを投与して肝保護作用の解析を進めている。
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