研究課題/領域番号 |
21K08716
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
渡部 かをり 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 助教 (20871263)
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研究分担者 |
志賀 一慶 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 助教 (20747282)
高橋 広城 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 准教授 (30381792)
松尾 洋一 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (40381800)
瀧口 修司 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (00301268)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 癌関連線維芽細胞 / CAF / Chitinase 3-like 1 / CHI3L1 / 大腸癌 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,癌関連線維芽細胞(以下CAF)から分泌されるChitinase3-like1(以下CHI3L1)が大腸癌の進展,すなわち増殖や遊走,浸潤,血管新生能にどのように関与しているのか,またそのメカニズムを解明することである.CHI3L1の起源について既存文献の多くは癌細胞からの分泌と報告しており,CAFの関与を言及した上でメカニズムの全容を解明した報告はなかったが,今回我々はサイトカインアレイやELISAにて,CAFから多くのChitinase 3-like 1が分泌されていることを確認しており,CAFに関与する癌進展に影響している因子として着目した. 2021年度は、CHI3L1が癌細胞よりもCAFで強く発現し分泌が多く、さらに血管新生因子のIL-8についてもCAFは癌細胞よりも多く分泌されており、CHI3L1投与にてIL-8分泌亢進がみられたことからCAFから分泌されるCHI3L1とIL-8が癌血管新生能に関与すると考えられた。 2022年度はCHI3L1がどのような機序でCAFから分泌されるか、また癌血管新性能を亢進させる機序についてを明らかにするべく、CHI3L1のレセプター発現の有無についての実験を行った。CHI3L1のレセプターとして報告されているIL-13Rα2が、癌細胞よりCAFで強く発現しており、さらにそれのノックダウンさせたCAFでCHI3L1投与によるIL-8発現増強を抑制させる結果が得られた。また、CAF上清を用いたTube Formation Assayを行い、CAFから分泌されるCHI3L1とIL-8が実際に血管新生に与える影響を示すことができた。 CAFからのCHI3L1の分泌機序、またそのCHI3L1が癌血管新性能を亢進させる機序についての全容は依然として不明であり、今後も引き続きこれらのメカニズムを明らかにするべく研究を継続していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CHI3L1のレセプターとして報告されているIL-13Rα2に着目し、検証した。これまでの実験にて、複数の大腸癌細胞株およびCAFを用いて、IL-13Rα2の発現や分泌をRT-PCR・Western blottingで比較検討したところ、CAFの方が癌細胞よりも、IL-13Rα2の発現が強いとの結果を得た。さらにこのCAFで発現しているIL-13Rα2が、血管新生因子であるIL-8やVEGFと関与しているか確認するために、CAFにおけるIL-13Rα2のノックダウン後のCHI3L1投与によるIL-8およびVEGFの発現もRT-PCR で評価したところ、IL-13Rα2ノックダウンしたCAFでCHI3L1投与によるIL-8発現増強を抑制させる結果が得られたが、VEGF発現には有意な影響を与えなかった。さらにCAFでCHI3L1からIL-8発現につながるシグナル伝達経路にを同定するべく、NF-κB経路やMAPK経路などについて繰り返し検証を行ったものの、結果が安定せず特定には至らなかった。 また、CAFとCHI3L1が血管新生因子IL-8とVEGFに関与していることは示唆されたが、実際に血管新生に与える影響についての機能実験として、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を用いたTube Formation Assayを行った。CAF上清は実際に血管内皮細胞の管形成を増加させ、CHI3L1中和抗体添加やCHI3L1ノックダウンにより抑制されることが示された。 これらの結果により、CHI3L1はCAFから分泌されているだけでなくCAFに発現しているIL-13Rα2に結合し、IL-8発現・分泌に関与することで癌血管新生能に関与すると考えられたが、実際のin vivoでの作用も含めて未だ全容は明らかではなく、今後もそのメカニズムの解明のため実験を継続していく。
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今後の研究の推進方策 |
CHI3L1がどのような機序でCAFから分泌されるか、またin vivo、癌微小環境においてCHI3L1が癌血管新性能を亢進させる機序の全容については依然として不明である。引き続きCHI3L1が作用するシグナル伝達経路を確認し、これらの機序について解明していく。 また、さらに、CAFとCHI3L1が関与する抗腫瘍作用のin vivoでの効果につき、動物実験を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
内容として繰り返す検証実験が重なったため実質の経費としては少なくなった。また新型コロナ感染症による出張制限などのため旅費などの経費が抑えられた。しかし今後も動物実験を含めた検証を継続するため実験備品や動物の購入が必要であり、また学会発表・論文投稿の予定もあり、前年度の残額も含めてこれら必要経費に充当する予定である。
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