膵癌において,FDG PET/CTは遠隔転移の存在診断に加え,FDG集積が生物学的悪性度を反映し予後予測にも有用であることが示されている.しかし,FDG高集積膵癌が予後不良となる機序について,特に糖代謝に関連したknowledge-basedな研究は行われているものの,十分な解明には至っておらず,既存の知見にとらわれない網羅的俯瞰的な解析が望まれる. 本研究の目的は,FDG集積の違いに着目し、質量分析を用いた網羅的プロテオーム解析を起点として膵癌の生物学的悪性度を規定する未知の機序を探索し,バイオマーカーを開発することである.解剖学的進行度のみに基づいた従来の治療アルゴリズムに生物学的悪性度の概念を加えることで,新たな治療アルゴリズムの提案が可能となる.
質量分析から得られたプロテオームデータをもとにタンパク質共発現解析を行い、重要な分子プロファイル、予後に結び付いた共発現ネットワークの同定、上流制御因子を解析することに成功した。好気性解糖の他、GLI1に制御されるnon-canonical Hedgehog pathway、IRESによるキャップ非依存的翻訳、IRE1a/XBP1経路、UPR経路の不活性化、SOX2の活性化、PALB2の変異が、膵癌の生物学的悪性度に関与していることが明らかになった。新規のタンパク質共発現解析により、膵癌に対する新たな治療戦略開発の第1歩となると思われた。
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