研究実績の概要 |
昨年度までに実施したラットにおける肝臓部分照射後の非照射肝葉の代償性肥大についての研究について、結果を論文として発表した(Adachi T, Shibuya K, et al., J Radiat Res . 2023 Jul 18;64(4):693-701)。開腹手術下で前肝葉に60GyのX線を照射したところ、腹側葉は進行性に萎縮し、背側葉の肥大が見られた。X線照射群の腹側葉で肝細胞変性と消失が観察され、照射8週後に有意な線維化が発生した。照射後、腹側葉のKi-67陽性細胞の割合は早期に著しく減少したが、背側葉の陽性細胞の割合は増加し、照射4週後にピークに達した(p<0.05)。腫瘍壊死因子αの発現増加は、X線照射群の腹側葉のみで照射後1週と4週に観察された。部分肝照射は、非照射葉の代償性肥大を引き起こし、部分肝照射後の肝肥大は、肝細胞分裂の増加によるものであることが示唆された。同様の条件でのPVEモデルの先行研究と比較すると、放射線治療による代償性肝腫大はより遅いタイミングでおこっていた。重粒子線での予備的実験でX線よりも強く代償性肝肥大を誘発する可能性が示唆され、重粒子線での検証の必要性が示唆された。 臨床例での検討に関しては、EOB-MRIから推定した炭素イオン線照射における肝細胞障害の閾値(Child-Pugh分類Aでは51.8Gy(RBE)、Ebara M, Shibuya K, et. al, Adv Radiat Oncol. 2021)から、閾値線量を超える領域の体積を算出した。計測誤差の少ない対象として右葉病変に対する照射後の外側区の体積変化率を算出、相関を検討したが、想定とは異なりコホート全体では閾値線量を超える照射域の体積と肥大の程度に明らかな相関は見られなかった。これらの結果から、現在代償性肝肥大に影響する臨床的な因子について検討を行っている。
|