研究目的:分子標的薬のレンバチニブは切除不能な進行性肝細胞癌(HCC)に対して高い奏効率を示す。ポリε-カプロラクトン(PCL)はエレクトロスピニング法によって薬剤を内包したナノファイバーとなり、薄くて柔軟なPCLシートを織ることができる。本研究では、レンバチニブ内包PCLシート(レンバチニブシート)が、Drug Delivery System (DDS)としてマウスHCCモデルにおいて抗腫瘍効果を発揮するかを検討した。 研究方法:レンバチニブシートは経口投与量の約32.5%である1mgのレンバチニブを14日間で徐放するように設計し開発した。ヒトHCC細胞株HuH-7を皮下へ、HuH-7-Lucを腹腔内に移植したマウスモデルを用いてレンバチニブシートの有効性を検討した。皮下腫瘍モデルではレンバチニブシート群とレンバチニブ経口投与群での抗腫瘍効果比較と、シート挿入部位による抗腫瘍効果比較を腫瘍体積、体重、血清レンバチニブ濃度を経時的に測定し検討した。また、腹膜播種モデルを用いてレンバチニブシートの生存期間延長効果を検討した。 結果:レンバチニブシート群では無治療群および経口投与群と比較し有意に腫瘍増殖を抑制し(P<0.05)、抗腫瘍効果はシート群で経口投与群より有意であった(P<0.05)。シート挿入部位によらず、血清中レンバチニブ濃度は維持され、同様の抗腫瘍効果を示した。病理学的解析では、レンバチニブシート群では対照群と比べて細胞分裂が有意に抑制され、微小血管の面積と密度が少なく、血管の内径は狭かった(P<0.05)。腹膜播種モデルではレンバチニブシートは治療開始後30日での生存率を向上させた(P<0.01)。 考察:本研究では、経口投与量の32.5%に相当する1mgのレンバチニブを含有するシートが挿入位置に関わらず、レンバチニブの血清濃度を維持し、十分な抗腫瘍効果を示すことが確認された。 PCLと分子標的薬のレンバチニブは組み合わせが可能であり、有効なDDSとなることが示唆された。
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