研究課題/領域番号 |
21K08763
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研究機関 | 千葉県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
中村 洋子 千葉県がんセンター(研究所), がん予防センター, 主任上席研究員 (60260254)
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研究分担者 |
下里 修 千葉県がんセンター(研究所), がん予防センター 腫瘍ゲノム研究室, 室長 (30344063)
巽 康年 千葉県がんセンター(研究所), がん予防センター 腫瘍ゲノム研究室, 研究員 (00450578)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 胃がん / ARID2遺伝子 / SNP / ゲノム / がん予防 |
研究実績の概要 |
日本多施設共同コーホート研究は、個人の体質を考慮した生活習慣病の予防対策に必要な基礎資料の提供を目的とし、20年以上の予定で試料の保管と住民追跡調査を行っている。我々は、千葉県北西部の住民の疫学情報と血液試料を用いてがんのリスクに関連する生殖細胞系列SNVの探索をその付随研究として行い、その成果として胃がん発症との関連性が予想される生殖細胞系列SNVを複数見出した。本研究では、それらの一つであるクロマチンリモデリングに関与するARID2遺伝子に含まれる新規SNPに着目し、胃がん発症における意義の解明を目的とする。 令和3年度は試験管内での機能解析を中心に研究を行ってきた。ナンセンス突然変異によって正常なARID2蛋白質を持たないヒト胃がん由来細胞に、レンチウイルスベクターを用いて野生型(WT)あるいは変異型(MUT)のARID2遺伝子を導入した。コントロールベクター導入細胞と比較して、WTの強制発現は細胞増殖速度の低下ならびに広範な遺伝子群の発現パターンを変化させる影響を及ぼしたが、MUTの強制発現はこれらの形質を呈さなかった。また、正常なARID2を発現するヒト胃がん細胞株にsiRNAを用いてARID2をノックダウンさせると、細胞増殖の促進が見られ、前述の強制発現実験の結果を裏付ける結果となった。興味深いことに、クロマチンリモデリングに関連するPBAF複合体の形成に対し、新規SNPの有無はほとんど影響を及ぼすことはなかった。以上の結果からARID2の新規SNPは機能喪失型の遺伝子変異である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた、野生型および変異型ARID2遺伝子発現レンチウイルスベクターを用いた、当該遺伝子を胃がん細胞へ強制発現し関連遺伝子等の発現パターンの解析や免疫沈降、PBAF複合体形成の検討、クロマチンリモデリング機能における当該SNP等の検討を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
試験管内でのARID2に対する新規SNPの機能解析について、令和3年度に作製した野生型(WT)あるいは変異型(MUT)のARID2遺伝子を過剰発現する胃がん細胞を用いて、クロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイあるいはChIP-seq解析を行い、ARID2の標的DNA配列への結合性を検討する予定である。さらに、変異型ARID2を過剰発現するヒト胃がん細胞株をヌードマウスに接種して、造腫瘍能などへの影響を検討する。 胃がん発症・進展との関連性の検討については、当該SNPノックインマウスにメチルニトロソ尿素(MNU)を含む飲用水を投与する化学発がん実験を行う。MNUは飲水に混ぜて1週間投与し、その後滅菌水を1週間飲用させる。これを4回繰り返してから40週間経過した後、胃がんの発生頻度や進行度を検討する。すなわち、胃がん組織とそれに近接する正常胃粘膜組織を採材し、組織学的および分子生物学的な検討を行っていく。加えて、細胞株を用いて得られた結果が実際のヒト胃がん組織でも起きているか、千葉県がんセンターに併設されるバイオバンクに収蔵された胃がん組織からDNA・RNAを抽出し、当該SNPの有無と遺伝子発現パターンの関連性を、網羅的遺伝子解析手法を用いて検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により会議等が中止やリモートになったため、旅費等が発生しなかった。 当センターのバイオバンクに保管されている胃がん組織を用いて、当該SNPの有無と遺伝子発現パターンの関連性を、網羅的遺伝子解析手法を用いて検討等を予定している。
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