研究課題/領域番号 |
21K08774
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
山本 晃 三重大学, 医学系研究科, リサーチアソシエイト (10889322)
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研究分担者 |
問山 裕二 三重大学, 医学系研究科, 教授 (00422824)
川村 幹雄 三重大学, 医学系研究科, 助教 (00722589)
大北 喜基 三重大学, 医学部附属病院, 講師 (20378342)
奥川 喜永 三重大学, 医学部附属病院, 教授 (30555545)
今岡 裕基 三重大学, 医学系研究科, 寄附講座助教 (70762938)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 潰瘍性大腸炎症 / 孤発性大腸癌 / バイオマーカー / エピゲノム / メチル化 |
研究実績の概要 |
潰瘍性大腸炎症例ならびに孤発性大腸炎症例の組織サンプルを用いた網羅的DNAメチル化解析より、標的となるメチル化CpGサイトcg17698295(gene symbol:OPLAH)を決定した。同CpGサイトのメチル化レベルを評価したところ、癌特異的な高メチル化を示すのみならず、年齢と正の相関を認めるほか、潰瘍性大腸炎症例に関しては、盲腸、横行結腸、直腸の順にメチル化レベルが高くなるという、空間依存的な特徴も有していることが分かった。この特徴は、発癌素地を反映した概念として、時間に関連した"epigenetic drift"ならびに空間に関連した"field effect"を応用できる可能性を示唆していた。当科で集積したサンプルを用いて、潰瘍性大腸炎症例の非癌部直腸粘膜を用いて同メチル化レベルを評価したところ、癌合併症例とそうでない症例の鑑別に有用であることが確認できた。その後多施設共同で潰瘍性大腸炎関連大腸癌症例から直腸粘膜を集めた前向き研究を行ったところ、同メチル化レベルの評価が、潰瘍性大腸炎症例の非癌部直腸粘膜のみを用いて癌合併症例を鑑別し得ることを再現性をもって確認した。一方で、潰瘍性大腸炎症例に生じた孤発性大腸癌と潰瘍性大腸炎関連癌を鑑別することに関しては、そもそも症例の希少性の問題に加え、「潰瘍性大腸炎を背景とした孤発性大腸癌」であることの証明がそもそも難しい現時点では、TP53変異のほか、病理医との密な連携が必要であるなど、課題もみえてきている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
標的に設定したcg siteは想定通りcancer-specific、time-dependent、location-dependentのそれぞれの特徴を有していることがわかり、かつepigenetic driftとfield effectの概念を用いた非癌部粘膜を用いた診断バイオマーカーとしての実現可能性を示唆していた。一方で、潰瘍性大腸炎症例の発生する潰瘍性大腸炎関連大腸癌と孤発性大腸癌とを鑑別するためのマーカーとしての実現可能性については、まだ課題が多い状況である。症例の希少性、ならびに問題点そのものである鑑別の困難性が挙げられる。潰瘍性大腸炎症例に生じた癌が潰瘍性大腸炎関連大腸癌か、孤発性大腸癌かがあらかじめ鑑別できている状況であれば、今回同定したマーカーを用いてretrospectiveに評価することができるが、そもそもこの鑑別が困難であることが問題のため、引き続き検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
潰瘍性大腸炎症例の発生する潰瘍性大腸炎関連大腸癌と孤発性大腸癌とを鑑別するためのマーカーとしての実現可能性について引き続き課題をクリアする必要がある。症例の希少性、ならびに問題点そのものである鑑別の困難性が課題である。潰瘍性大腸炎症例に生じた癌が潰瘍性大腸炎関連大腸癌か、孤発性大腸癌かがあらかじめ鑑別できている状況であれば、今回同定したマーカーを用いてretrospectiveに評価することができるが、そもそもこの鑑別が困難であることが背景にあるため、我々の提示するマーカーの有用性を示す方法について引き続き検討する必要がある。"field effectが減衰する"ことを仮説とし、cancer tissueならびにadjacent normal mucosaそれぞれのメチル化レベルの差をとることで、鑑別マーカーとしての可能性を探っている。これに病理医の意見や、既知のTP53 mutation levelといった鑑別マーカーの候補による評価を加えることで、鑑別マーカーとしての有用性について、その可能性を探る方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)"潰瘍性大腸炎症例に生じた孤発性大腸癌"のサンプル集積に難渋しており、DNA抽出やbisulfite処理といったメチル化解析のための試薬および機器の使用機会が少なく済んだため。また、現状のデータで英語論文を作成し各journalへの投稿を行っているが、rejectが続いている状況にあることから、論文投稿のための費用が少なく済んだため。 (使用計画)revisionが必要になった際に追加実験を行うための費用として予算が必要と考えられるほか、ひきつづき潰瘍性大腸炎症例に生じた潰瘍性大腸炎関連大腸癌か、孤発性大腸癌かを鑑別するためのマーカー開発には、サンプル採取、DNA抽出、bisulfite処理、pyrosequenceなどの行程が必要なほか、参考程度の鑑別方法として挙げられている他のmodalityを使用して総合的に判断するなどの方法も考えられるため、これらの実験費用として、DNA抽出のための試薬費用、bisulfite処理のための試薬費用、pyrosequenceのための試薬費用として使用する予定であり、また、論文投稿のための費用として使用する予定である。
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