研究課題/領域番号 |
21K08775
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高橋 秀和 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (10528508)
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研究分担者 |
波多 豪 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (80749747)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | INK4タンパク質 / Cyclin-Dependent Kinase / 大腸癌 |
研究実績の概要 |
大腸癌は罹患数、死亡数共に上位を占める癌腫であり分子標的薬を用いた多剤併用治療により予後の延長は図られているものの、遠隔転移や再発症例ではいまだ生存率は低い。 癌遺伝子をターゲットとした治療薬は臨床応用されているが、癌抑制遺伝子をターゲットとした抗腫瘍薬の開発は進んでいない。INK4タンパク質は細胞周期、分裂の調節因子であるCyclin-Dependent Kinase(CDK)の活性に抑制的に関与し、癌細胞ではINK4遺伝子の失活やCDKを過剰活性する変異が認められることがあり、INK4は癌抑制遺伝子の役割をすると言われている。大腸癌に関してはsubtypeであるINK4a遺伝子において、プロモーター領域のメチル化による発現低下を認めており、疾患予後にも関与しているという報告も見られている。INK4の発現については十分示されていないが、癌におけるp16のpromotor領域のメチル化が指摘されており、細胞レベルでの発現は認められていない。大腸癌細胞におけるINK4のタンパク、RNAの発現を確認しINK4の発現量について比較を行なったが、INK4はいずれも抑制される傾向にあった。その中でINK4dでは若干ではあるが発現量が多い傾向にあった。そこでadenovirusを介したINK4a(p16),INK4d(p19)の強制発現系を作成し、4種の大腸癌細胞においてINK4の強制発現によりその増殖能が抑制されることを確認した。 次の段階としてINK4タンパクの調節についてプロテアソーム阻害薬を使用した増幅実験を試みた。INK4 familyの大腸癌における更なる機能解析、タンパク制御について検討を行い、そのタンパクを制御する化合物の同定を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
大腸癌細胞株におけるINK4ファミリーの発現状況を確認した。INF4aのタンパク質レベルの解析において、HeLa細胞を陽性コントロールとして検討した。大腸癌細胞株であるLIM1215、HCT116、DLD1、HT29においてウエスタンブロッティングをおこなったが、いずれも検出感度以下との結果を得た。検出感度を上げるべく、遺伝子レベルの解析を行う方針とした。その結果、INK4aはタンパク質レベルと同等にいずれの細胞株においても非常に発現量が低いという結果であった。INK4cも同様に発現量は低いものの、INK4αよりも高く、同様にINK4dを検討すると、これはHeLa細胞よりも発現量が多いという結果であった。本研究の根本にある概念としてINK4familyの発現量を上昇させることにより、がん細胞の挙動を制御することであり、この発現量を上昇させるメカニズムはタンパク質分解を抑制することにある。従って、もともとの発現量がない、もしくは検出感度以下の場合は、これ以上の追跡、研究は困難と考えられるため、今後はINK4dを治療標的として設定し、実験系を組み替える方針に変更し、現在実験系の構築段階である。
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今後の研究の推進方策 |
上記、現在までの進捗状況の項では細胞株を用いて検討を行った所であるが、外科学教室である我々は臨床検体での検討も行うことができる。大腸癌手術後に採取した臨床検体の非癌部と癌部のそれぞれを採取し、RNAを抽出する。抽出したRNAはそのqualityを確認する。quality確認後にそれぞれのINK4familyの発現量をPCRを用いて測定する。同時に、INK4familyの過剰発現が大腸癌の治療として成り立つかをスクリーニングするために、INK4familyの強発現系を構築する。INK4familyの強発現系を用いて、細胞増殖能、遊走能などの癌の進展に関与する機構の発現系の変化を検討する。また内因性のタンパク質はウエスタンブロッティングで捉えられなかったわけであるが、強発現系ならばその限りではない可能性がある。そのため、この強発現系を用いて、タンパク質分解阻害が可能であるか、可能であるならばそれが細胞挙動に与える影響を細胞株を用いた実験系で評価する。 細胞株を用いた実験系がワークすることが確認できた際には、ケミカルスクリーニングの系を立ち上げるべく、レポーターベクターを構築し、可視化を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍が引き続いているため、研究・実験の進捗が遅れている
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