研究課題
CDK阻害剤の探索をすべく構造活性相関を十分に得られるだけの類縁化合物を評価を行ってきた。しかしながら、昨今のウクライナ・ロシア情勢により類縁化合物の入手が遅れているためである(化合物の販売元がウクライナ・ロシアに存在するため)。引き続き、粘り強く新たな類縁化合物の購入を進めているところである。一方、CDK上流の文献的考察からG9a分子の関連が示唆されたため、大腸癌臨床検体を用いて、検討を行った。 G9aはインターロイキン 8 (IL)-8との関連性を示す分子であり、炎症反応と癌発生の調節において多面的な機能を果たすケモカインとされる。大腸癌切除症例 235例を免疫組織化学的に分析し、臨床的特徴を相関を検討した。G9a 発現が高い症例は全生存期間と無再発生存期間が良好であり、単変量解析および多変量解析により、低 G9a 発現は、疾患再発の増加および生存率の低下に対する有意な独立した予後因子であった (P < 0.05)。 G9a は、HCT116 および HT29 で高レベルで発現しており、 siRNA、shRNA、または G9a 特異的阻害剤 BIX01294 による G9a のノックダウンは、IL-8 発現を促進した。 G9aの発現を安定的に抑制したHCT116細胞ではスフェロイド数が有意に増加し、IL-8の発現を安定的に抑制したHCT116細胞ではスフェロイド数が有意に減少した。以上のことから、G9a による IL-8 の抑制は、G9a 発現が高い CRC 症例の予後を改善する可能性があり、 さらにG9a は癌の幹細胞性を抑制し、IL-8 を制御することによって化学感受性を高める可能性が示唆された。
3: やや遅れている
類縁化合物の入手が現時点では困難ではあるが、引き続きchemicalの入手を進めてゆく。
現時点でハイスループットスクリーニングの系は確立している。また先行して行ってきた同一の系でのp53活性化分子のスクリーニングでは、安定した精度をもってp53タンパク質活性化剤をスクリーニングできる系を構築し得ている。本スクリーニング系を用いて、コア・ライブラリ9600種のスクリーニングを実施した結果、57種のプライマリーヒットを得ることに成功しており、本系によってヒット化合物を絞り込み、最終的にWestern blotによるp53タンパク質の安定化を検証することで7種のヒット化合物を得ることに成功している。これらの化合物には、既にp53を活性化させることが報告されているスタウロスポリン (Villunger et al., Science 2003) やHarmine (Dai F, et al. PLOS ONE 2012) に加え、p53に直接結合するとされるCP-31398とその類縁体(Foster BA et al. Science 1999)が含まれていたことから、本スクリーニングの妥当性が実証されている。これらに加え新規ヒット化合物として、GMX-151,GMX-157を同定することに成功しており、新規ヒット化合物GMX-151について、p53野生型およびノックアウトの大腸癌細胞株を用いて検討したところ、p53タンパク質の安定化を確認するとともに、p53依存的に細胞増殖の抑制やアポトーシスの増加を認めている。本スクリーニング系を用いてCDK阻害剤の探索を行うべく、類縁化合物の入手を模索してゆく。ただし、入手の目処が立たない場合には今年度と同様、文献的考察を行いながらCDKに関する新規メカニズムの探索を並行して行う。
すべて 2023
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Carcinogenesis
巻: 43 ページ: 797-807
10.1093/carcin/bgac050