研究課題/領域番号 |
21K08781
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
小川 雄大 大分大学, 医学部, 病院特任助教 (40733621)
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研究分担者 |
猪股 雅史 大分大学, 医学部, 教授 (60315330)
衛藤 剛 大分大学, 医学部, 准教授 (00404369)
家入 里志 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (00363359)
大嶋 佑介 富山大学, 学術研究部工学系, 准教授 (10586639)
大西 峻 鹿児島大学, 鹿児島大学病院, 特任助教 (10614638)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ヒルシュスプルング病 / ラマン分光法 / 光バイオプシー / 畳み込みニューラルネットワーク |
研究実績の概要 |
ヒルシュスプルング病(H病)は、腸管壁内神経叢の先天的欠如が原因となり、腸管の蠕動障害が起こる小児の代表的な消化管機能異常疾患である。本研究は、H病根治手術における切除範囲決定のために、ラマン分光法を用いた光バイオプシーによって無神経節腸管範囲を非侵襲的かつリアルタイムに同定し、無神経節腸管の残存”0”を目指す新たな術中診断法の開発を目的としている。 令和3年度は、H病根治術で採取されたホルマリン固定標本を用いて、ラマン分光法による腸管壁内神経叢同定を行った。病理学的に無神経節腸管、正常腸管と診断されている箇所を用いて粘膜のラマンスペクトルを網羅的に計測した。計測したスペクトルの解析のために、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いることにより、リアルタイム診断につなげる試みも行った。 結果として、無神経節腸管と正常腸管の粘膜から得られたラマンスペクトルデータの一部をCNNに学習させ、さらにガウスノイズを付加したスペクトルも学習させることにより、評価用データの無神経節腸管と正常腸管を100%判別させることに成功した。腸管のラマンスペクトルデータの判別にCNNは有用であり、ノイズを追加することによるデータ拡張においても判別制度を高めることができた。さらに、ヒルシュスプルング病の診断に腸管壁内神経叢の有無を直接確認せず、粘膜のラマンスペクトルを測定するだけで診断が可能であることも示唆された。症例数が少ない小児外科領域において、ノイズによるデータ拡張により学習効率を上げることができたのは大きな成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は3年間で臨床応用を見据えたラマン分光器搭載型腹腔鏡手術システムを確立することを目的としている。 令和3年度は、当初の計画通りH病根治術で採取されたホルマリン固定標本を用いて、ラマン分光法による無神経節腸管および正常腸管の判別を行うことができた。さらには、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いることにより、リアルタイムかつ正確なスペクトル解析へと繋げることにも成功した。機械学習を用いたラマンスペクトル解析は、本年度の計画には含まれておらず、本研究が計画以上に進展していることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度より、実際に想定している術中リアルタイム診断と同じ生検体によるラマン分光測定を手術室において行う方針で準備を進めている。具体的には、小型卓上ラマン分光器を手術室に持ち込み、手術により摘出された腸管(ホルマリン固定前の生検体)を、その場ラマン分光分析を行う。ホルマリン固定によるノイズがないために、実際の手術でのリアルタイム診断と同等のラマンスペクトルが測定可能と考えている。これにより、小型卓上ラマン分光器の精度評価及び腸管各層のスペクトルデータの蓄積を行う。最終的には、病理学的診断と照らし合わせてラマン分光法での診断的中率および感度を評価する予定である。 また並行してラマンスペクトルを測定可能なファイバー型デバイスの開発も進めていく。術中に腸管壁内神経叢のリアルタイム可視化を想定し富山大学工学部と共同で小型卓上ラマン分光器を製作する。レーザー強度を5倍以上、CCD検出器感度を2倍以上として、術中に1計測あたり1分以内で可能なファイバー型デバイスをレーザー照射部に装着することを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
繰り越し額として共同研究者に132,000円が生じた。コロナ禍における県を跨いだ(大分-鹿児島)移動制限があり、旅費等を使用しなかったためである。しかし、ZoomやWebinarなどのWeb会議システムを駆使して、研究の進捗に遅れが出ないように工夫した。 研究開発においてFace to faceのミーティングは重要であり、コロナの移動制限も落ち着いてきたことから、次年度は対面での会議を是非実施したいと考え、次年度に持ち越す。
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