研究課題/領域番号 |
21K08782
|
研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
白下 英史 大分大学, 医学部, 講師 (50596955)
|
研究分担者 |
衛藤 剛 大分大学, 医学部, 准教授 (00404369)
白坂 美哲 大分大学, 医学部, 客員研究員 (40837746)
大嶋 佑介 富山大学, 学術研究部工学系, 准教授 (10586639)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 光線治療 / パルスレーザー / 腹膜播種 |
研究実績の概要 |
光感受性物質の存在下で光線を照射するphotodynamic diagnosis/therapy (PDD/PDT)は臨床において皮膚癌,膀胱癌,食道癌,脳腫瘍などに応用されている.5-Aminolevukinic acid (5-ALA)を用いたPDT/PDD(ALA-PDD/PDT)は,胃癌腹膜播種モデルマウスによる検証実験でその有用性が示されている.5-ALAはヘム産生の原料としてミトコンドリア内で合成されており,その代謝中間物が光照射により活性酸素(ROS)を生成する.発生したROSによりミトコンドリアが障害され,細胞はアポトーシスを起こす.5-ALAを過剰投与した場合,正常細胞ではPIXは酵素により速やかにヘムへ変換されるが,癌細胞内ではヘムに代謝されずに中間生成物が細胞内に蓄積されやすく,殺細胞効果が得られる.一方,課題としては他の光感受性物質(レザフィリンやフォトフリン)に比べて,癌特異性は高いが殺細胞効果が低いことである.殺細胞効果を上げることができれば,5-ALA-PDTは癌特異性の高い新規腹膜播種治療法となりうる.本研究の目的は,肉眼的にすべての病巣を診断することが難しく,腸閉塞や腹水により患者QOLを低下させる難治性の胃癌腹膜播種病変に対するより効果的で正常組織に影響の少ないパルスレーザー光線照射を用いた新規治療法を開発することである.本研究で明らかにすることは,①殺細胞効果の至適なレーザー光照射条件,②レーザー光線照射が癌細胞と癌微小環境に与える影響,③内視鏡や腹腔鏡に搭載可能な細径デバイスを用いてより広範囲の病変を治療できる可能性の模索,である.本年度は超小型パルスレーザー光源の製作および種々の胃癌細胞株に対する光感受性物質およびレーザー光線の曝露実験(ALA-PDD/PDT)を行った.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初3年間の研究計画のうち,1年目はレーザー光源の製作およびレーザー走査型非線形光学顕微鏡の構築および既存の赤色レーザー光源(637 nm)照射による胃癌細胞株を用いたALA-PDD/PDTの殺細胞効果の検証を予定していた.本年度の研究進捗として,小型のピコ秒近赤外パルスファイバーレーザーの製作が完了し,良好なパルス発振(繰り返し周波数45 MHz)と平均出力(最大出力100 mW)を得ることができ,市販の倒立顕微鏡を用いて培養細胞に照射するための光学系を製作することができた.さらに,4種の胃癌細胞株(MNK45, MKN45P, MKN7, NUGC-4)を用いた殺細胞効果の検証実験が完了したため、おおむね計画通り順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
腹膜播種に対するALA-PDD/PDTにおいて,臨床応用を想定した腹腔鏡下でのパルスレーザー光照射の方法を検討する.その際に正常細胞に対して障害を起こさない工夫が必要となる.また,播種結節は厚みがあるため短波長の光では深部への殺細胞効果が期待できない.そこで5-ALAの中間代謝産物がROSを産生するために必要な最大励起波長は410 nmであるが、今回は637 nmのレーザー光照射(連続発振)においても高い殺細胞効果を確認した.そこで,5-ALAの中間代謝産物が多段階の吸収スペクトルを呈することを利用し,さらに長波長の近赤外パルスレーザーによる2光子吸収過程を利用したALA-PDD/PDTの実験を実施する.近赤外パルスレーザーは,光線照射のみでは正常組織に対してほとんど障害を与えないことから安全性については問題ないと考えられる.実際にはin vitroにおいて線維芽細胞など正常細胞における殺細胞効果の検証を行い,光照射後の周囲の正常組織において障害の有無を確認することで安全性の確認ができると考えている.さらに,パルスレーザーのパルス幅をより圧縮することで,熱的作用の影響を抑えてかつ殺細胞効果を高めることができるかどうか検証を行う.また,生体内での広範囲照射のためのデバイス製作およびマウス腹膜播種モデルを用いた検証実験についても着手する.
|