研究課題/領域番号 |
21K08790
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
渡辺 和宏 東北大学, 大学病院, 助教 (30569588)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 潰瘍性大腸炎 / 家族性大腸腺腫症 / 回腸嚢炎 |
研究実績の概要 |
潰瘍性大腸炎または家族性大腸腺腫症術後の登録を前年度に引き続き行ない、登録症例数は潰瘍性大腸炎42例、家族性大腸腺腫症9例に増加した。ストーマ閉鎖術後の経時的な回腸嚢内視鏡検査を施行し、PDAI(Pouch activity index)をもとにした回腸嚢炎の新規発症の観察をおこなうとともに、生検での粘膜サンプルの収集、糞便サンプルの収集を行った。また、コントロール(抗菌剤やプロバイオティクスなどの薬物治療を行っていない健常成人)の登録も昨年度から10例増加し20例となった。現時点で潰瘍性大腸炎患者10例で回腸嚢炎を認めた。回腸嚢粘膜の生検検体からtotal RNA抽出し、以下の抗菌タンパク/ペプチドのmRNAの定量をRT-PCR法にて行った(Resistin-like moleculeβ(RELM-β)、Human β defensin 1 (hBD1)、Human α defensin 5 (HD5))。現時点で採取してある単回採取した症例群で検討したところ、どの抗菌ペプチド/タンパクでも潰瘍性大腸炎と家族性大腸腺腫症術後で発現量に有意差は認められなかった。人工肛門閉鎖後の経過期間で分類して検討したところ、人工肛門閉鎖後1年以内と比べ2年以上経過した症例に関してRELM-βとhBD1の発現量が有意に少なかった。同様に人工肛門閉鎖後1-2年 の症例と比較し2年以上経過した症例でもRELM-βとhBD1の発現量が有意に低下していた。回腸嚢炎症例と非回腸嚢炎症例の比較で抗菌ペプチド/タンパクの発現に明らかな差は認めなかった。糞便検体については前年度に引き続きpH・Na測定を採取直後に行なっており、人工肛門の症例よりも人工肛門閉鎖後1~2年経過した症例でpHが低値の傾向を認めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、潰瘍性大腸炎または家族性大腸腺腫症の大腸全摘・回腸嚢肛門(管)吻合術を施行または施行予定の症例を対象としている。経時的な検体採取ができ る症例に対しては、ストーマ閉鎖術直前、1か月後、以後3ヶ月毎に2年間、検体を採取する予定である。既にストーマ閉鎖を行っている症例については、ストー マ閉鎖術後2年以上経過した症例は単回で、2年未満の症例は3ヶ月毎に術後2年目まで採取する予定である。目標症例数としては、経時的採取をする症例として は、潰瘍性大腸炎30例、家族性大腸腺腫症5例、単回採取をする症例としては潰瘍性大腸炎40例、家族性大腸腺腫症10例としている。令和4年度は、潰瘍性大腸炎 42例、家族性大腸腺腫症9例が登録されており、概ね順調に登録されたと考えいる。コントロールとなる抗菌剤やプロバイオティクスなどの薬物治療を行ってい ない成人健常人は、令和4年度にさらに10例が追加となり、目標登録数である20例が登録できており、順調に登録できたと考えている。腸内細菌叢の解析や有機酸測定は、す べての症例登録が完了し、経時的な検体を含めすべての検体を採取した後にまとめて行う予定である。このため、令和4年度は糞便中のpH測定、Na測定、および、抗菌ペプチド/タンパクの定量を中心に 解析し、当初の予測通り、間接的に有機酸の増加を示唆する結果が得られた。当科では年間約25例の潰瘍性大腸炎あるいは家族性大腸腺腫症に対する手術を施行 している。当科での術後の回腸嚢炎発症率は術後2年で16%であり、本研究開始後2年間でのIPAA症例は約50例、回腸嚢炎新規発症例は約8例と予想される。以上よ り、計画通りの症例数での研究が可能と考えられ、概ね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は症例の登録及び、糞便・採血・回腸嚢粘膜の検体採取が主であり、実験自体も、糞便pH測定、Na測定、抗菌タンパク/ペプチドの定量などの実験が主であっ た。令和5年度は予定していた検体を全て収集したのちに、腸内細菌叢の解析のため に、糞便のDNA抽出および細菌16S ribosomal DNAシーケンス、細菌叢の系統樹解析、多様性解析、PICRUSt2を用いた機能プロファイル予測などをまとめて行う予定であ る。これらの細菌叢データについては、各検体内での相対量を計算し、各群間の比較を行う予定であ る。有機酸の測定については、糞便中のギ酸、酢酸、プロピオン酸、iso-酪酸、酪酸、iso-吉 草酸、吉草酸、乳酸、コハク酸をhigh performance liquid chromatography(HPLC)有機酸分析システムであるProminenceを用いて測定する予定である。また、内因性抗菌タンパク・抗菌ペプチド(RELMβ、hBD-1、HD5など)の発現量を引き続き行い、糞便検体を用いてELISA法による定量またはWestern blotによる半定量にて測定する予定である。これらで得られたデータをもとに腸内環境の経時的変化を解析するとともに、(1)潰瘍性大腸炎と家族性大腸腺腫症での違い、(2)回腸嚢炎発症例と非 発症例での違いなどについて比較検討する。少数例での予備検討において、経時的にIPAA術後の糞便pHが大きく低下することを認めており、短鎖脂肪酸の経時的 な増加を推察させるデータが得られており、本研究を行うことでより詳細で網羅的な解析が可能になると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度は症例の登録及び、糞便・採血・回腸嚢粘膜の検体採取が主であり、実験自体も、糞便pH測定、Na測定、抗菌タンパク/ペプチドの定量などの比較的費用のかからない実験が主であっ た。このため、予定していたよりも実験費用がかからなかったため次年度使用額が生じることとなった。また、コロナ禍の影響で海外学会への参加を取りやめたこともあり旅費も少なくなった。次年度の令和5年度は、腸内細菌叢の解析のため に、糞便のDNA抽出および細菌16S ribosomal DNAシーケンス、細菌叢の系統樹解析、多様性解析、PICRUSt2を用いた機能プロファイル予測などを行う予定であ る。。また、糞便検体をもちいて短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン 酸、酪酸、乳酸、コハク酸、ギ酸、吉草酸)の定量をpH緩衝化ポストカラム電気伝導度検出法をもちいたHPLCによる定量をおこなう予定である。令和5年度に行 うこれら複数の実験は、検体数も多くなることから予定よりも多くの費用が生じる可能性がある。また、国内・海外の学会にも参加予定であり旅費が予定より多くかかる可能性がある。このため、令和4年度に生じた残金は翌年度以降の実験で使用予定である。
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