潰瘍性大腸炎(UC)または家族性大腸腺腫症(FAP)の大腸全摘・回腸嚢肛門(管)吻合術(IPAA)を施行した症例を対象とし、回腸嚢内視鏡、生検での粘膜サンプルの収集、糞便サンプルの収集を行った。サンプルの単回採取群・経時的な複数回採取群をあわせて、UC42例、FAP10例が登録された。回腸嚢内視鏡検査によるPDAI(Pouch activity index)をもとにした回腸嚢炎の新規発症の観察では、回腸嚢炎をUC16例(38%)、FAP1例(10%)に認めた。回腸嚢炎の発症時期については、人工肛門閉鎖後半年から2年以内の発症が10例、2年以上経過しての発症が6例であった。コントロールとして、抗菌剤やプロバイオティクスなどの薬物治療を行っていない健常成人20例を登録した。回腸嚢内における腸内細菌についての検討では、α多様性解析では、健常人は、UC回腸嚢症例、FAP回腸嚢症例に比べ有意に多様性に富んでいた。人工肛門閉鎖後の経過期間による有意差は認めなかった。腸内細菌の系統解析では、綱レベルでは、Negativicutesは健常人と比べて回腸嚢症例では多い傾向であった。人工肛門閉鎖後の経過期間で分類したところ、Bacteroidiaは増加傾向でNegativicutesは減少傾向であった。回腸嚢炎の有無で検討したところ、NegativicutesとBacroidiaが回腸嚢炎ではやや多く、ClostridiaとBacilliがやや少なかった。回腸嚢内の内因性抗菌ペプチドの発現の検討では、RELM-βとhBD1の発現量は術前から術後前期で上昇する傾向がみられ、その後、術後後期に有意に低下していた。HD5の発現量は、術後期間による有意な変化は認めなかったが、術前に比べて術後は有意に発現量が低下していた。
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