研究課題
腸管上皮の基底部から+4ポジションに位置するLrig1陽性の細胞は正常腸管の幹細胞性維持に重要であり、EGFRを負に制御して癌抑制的に働くと報告されている。一方、癌幹細胞におけるLrig1の機能は不明な点が多い。本研究ではLrig1-GFPマウスを用いて化学発癌させたマウス大腸癌におけるLrig1発現の意義を明らかにすることを目的とした。2021年度、2022年度に臨床サンプルの解析、Lrig1-GFP マウスの大腸化学発癌、腫瘍細胞のシングルセル回収と遺伝子増幅を終えた。2022年度に行ったシングルセルRNA-seqの結果、Lrig1遺伝子発現と細胞単位で相関を示す遺伝子が5つ抽出されたが、2023年度はさらに解析を進め、Lrig1陽性細胞で発現が上昇している遺伝子のハブとして機能する可能性がある遺伝子として、ヒストンのメチル化を認識するエピジェネティック分子を同定した。また、2023年度は放射線や抗癌剤暴露後にLrig1発現細胞が、activeな幹細胞としての性質を示すようになるのかという点にも着目して検討を進めた。その結果、コントロールの大腸癌細胞株とLrig1を過剰発現させた大腸癌細胞株に放射線や抗癌剤を暴露するとコントロール細胞では細胞増殖能が低下したのに対し、Lrig1過剰発現細胞では細胞増殖能が増加することが明らかとなった。さらに、Lrig1過剰発現細胞では放射線や抗癌剤の暴露後にLrig1発現が低下し、activeな幹細胞のマーカーとされるLGR5やDCLK1の発現上昇が認められた。これらの結果はLrig1を発現する静止期の癌幹細胞が細胞障害によって活動期の癌幹細胞にConversionする可能性を示唆している。