冠動脈バイパス術など小口径の血行再建術では、現在のところ自家血管の使用に頼らざるを得ず、実用に耐えうる安定供給可能な小口径人工血管の作成は重要課題の一つである。我々は、生体吸収性のポリカプロラクタンを用いて作成した小口径人工血管(PCLグラフト)を用いて、健康ラットでの長期開存性と自家血管様の再生を示し、その実用可能性を明らかにした。本研究では、糖尿病がPCLグラフトの長期開存性や自家血管様の再生にどの様な影響を与えるか検討した。 これまでに、ラットモデルでストレプトゾトシン誘導の糖尿病が、PCLグラフト機能を著しく低下させること、そしてインスリンによる血糖値のコントロールで、PCLグラフト機能が維持されることを明らかにした。今年度は糖尿病がPCLグラフト機能を低下させるメカニズムに関して検討を行った。糖尿病は自家血管グラフトを劣化させることはよく知られており、これにはアルギナーゼ遺伝子の発現上昇を起点とした酸化ストレス増大が関与すると考えられている。しかし、本研究で利用している糖尿病ラットモデルでは、アルギナーゼ遺伝子の優位な発現変化は認められなかった。一方で、内皮機能の指標となるNO産生酵素の発現は、糖尿病ラットの動脈で著しく低下していた。また、糖尿病ラットではグラフト移植の手術侵襲非存在下でも、動脈から最近由来のS16リボソームが検出された。内皮細胞の再生機能低下や細菌による炎症の惹起が、糖尿病によるグラフト閉塞に関与する可能性が考えられるが、これらの変化がPCLグラフト機能の低下に直接関与しているかどうか、更なる検討が必要である。
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