ヒト組織間葉系幹細胞(MSC)を用いた再生医療では、現状、臨床的有効性の相違が認められていることから、本研究では疾患環境におけるMSCの細胞特性、多様性の分子機構の解明を目指している。 ヒト臍帯由来間葉系幹細胞 (US-MSC)、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞 (AT-MSC)、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞 (BM-MSC)を通常培養条件下(20%酸素、10%血清)と、病態を模したin vitroの培養系として低酸素条件下(5%酸素)または低栄養条件下(5%血清、1%血清)で培養を行い、細胞の形態、増殖能、発現分子、サイトカイン産生等の比較を試みた。 低酸素条件下では、いずれのMSCにおいても、通常培養条件下に比して、2日目までは細胞の形態に大きな違いは認められなかったが、その後は細長く線維芽細胞状の形態が目立つようになった。一方、低酸素条件下の増殖率は、いずれのMSCにおいても2日目までは有意な差は認められなかった。しかし、2日目から検討を行った5日目において、通常培養条件下に比して有意な低下が認められた。 通常培養条件下(20%酸素、10%血清)と低酸素条件下(5%酸素)における分泌因子等をRNA-Seqを用いて比較検討した。その結果、AT-MSC、BM-MSCは類似した遺伝子発現変化を示した。血管新生に関わる因子や細胞外基質に関わる因子の発現は、BM-MSC、AT-MSC、UC-MSCの順に高かった。特に、BM-MSCでは、低酸素条件下で4日間培養したところ、通常培養条件下と比較して血管新生に関わる因子や細胞外基質に関わる因子の発現が高くなっていた。また、AT-MSCおよびBM-MSCでは、低酸素培養条件時に低酸素応答に関わる遺伝子の発現が増加しており、その増加具合はAT-MSCでより顕著であった。これらの結果より、BM-MSCが組織修復の点に関してより有用である可能性がある。
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