研究課題/領域番号 |
21K08831
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
柴田 怜 久留米大学, 医学部, 助教 (40899697)
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研究分担者 |
青木 浩樹 久留米大学, 付置研究所, 教授 (60322244)
古荘 文 久留米大学, 医学部, 助教 (80597427)
田山 栄基 久留米大学, 医学部, 教授 (90281542)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 大動脈解離 / フィブリン / 免疫グロブリン / 炎症 |
研究実績の概要 |
本研究では大動脈解離のマウスモデルを用いてB細胞および免疫グロブリンを介した大動脈解離発症・進展機構の解明を目指している。野生型マウスに大動脈解離刺激を加えると解離発症前の大動脈壁に免疫グロブリン及びフィブリンが局所的に沈着していること、B細胞欠損マウスでは解離が軽症であること、B細胞欠損マウスに正常マウス免疫グロブリンを投与すると解離が重症化することを見出している。また、大動脈壁が破壊される前から免疫グロブリンおよびフィブリンが沈着することを発見した。 解離発症直前の大動脈組織における病態を網羅的に把握するためトランスクリプトーム解析を実施した。その結果、ヘモグロビン遺伝子の発現が亢進するという予想外の結果を得た。組織タンパク解析でもヘモグロビン・タンパクの含量が解離直前に増加することを見出した。ヘモグロビンの発現は赤血球系細胞に限られることから明らかな解離発症前に赤血球が大動脈壁内に漏出することが示唆された。 これらの知見から解離発症に先立って血管透過性が亢進することが示唆された。その分子機序を検討し、大動脈壁ヘモグロビン含量の上昇および酸化ストレスの亢進が細胞内シグナル分子FAK依存性であることを突き止めた。 大動脈解離病態では血行動態的負荷が大動脈壁に与えるメカノストレスが発症に重要な役割を果たすこと、またFAKはメカノストレスを細胞内シグナルに変換する分子であることから、FAK依存性の血管透過性亢進は解離発症に至る重要な段階であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
免疫グロブリン依存性の大動脈解離病態について、発症に先立って血管透過性の亢進が起こることを示すデータを得た。また、血管透過性亢進がFAK依存性でありることを明らかにした。さらに、FAK依存性の血管透過性亢進が大動脈壁の酸化ストレス亢進を伴うことを明らかにした。これらの知見から、大動脈壁ストレス受容から酸化ストレスおよび炎症惹起にいたる一連の分子イベントが明らかになりつつあると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
大動脈解離病態では大動脈壁へのストレスが一連の分子イベントを引き起こし破壊性炎症から解離発症・進展に至ると考えられる。これまでの研究からFAK依存性の血管透過性亢進および、その結果起こる赤血球漏出やフィブリンおよび免疫グロブリン沈着が破壊性炎症を引き起こすことが強く示唆された。大動脈解離における大動脈壁破壊は局所的であることから、これらの分子イベント・組織学的イベントも局所的に起こると思われる。その実態を把握するために、次年度には病理組織学的解析および空間トランスクリプトーム解析により、局所的な現象の解明を進める方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症蔓延による物流遅延等の影響で実験実施の遅延が生じたが、既に採取済みの検体の組織解析やデータのバイオインフォマティックス解析により研究を推進することができた。次年度は病理組織学的解析および空間トランスクリプトーム解析に研究費を使用し局所的な現象の解明を進める方針である。
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