研究実績の概要 |
【背景】呼吸器外科手術において気漏は頻度の高い合併症である。本邦ではFibrin glue(FG)が汎用されているがその接着力は不十分である。新規組織接着剤(Gelatin sealant: GS)は冷水魚スケソウダラのゼラチンを疎水化し接着力を高め、ポリエチレングリコールを架橋剤する。ブタ摘出肺・生体ブタ,ラットで、GSとFGの接着力, 所見を比較した。【方法】①摘出肺実験、耐圧実験:ブタ摘出肺に胸膜欠損を作成し各シーラント噴霧、換気し気漏出現時の気道内圧を測定した。追従性実験:ブタ摘出肺の胸膜表面に各シーラントを噴霧し、肺を拡張させシーラントが胸膜に追従できる最大面積を測定。②急性実験:ブタを全身麻酔下に挿管し、肺に10mmの胸膜欠損を作成。各シーラント噴霧。人工呼吸器にて換気を行い、気漏出現時の気道内圧を測定した。③慢性実験:ラットを全身麻酔下に挿管し、肺に5mmの胸膜欠損を作成。各シーラントを噴霧し閉胸した。一定期間後に気胸有無・血算生化学所見・組織所見を評価した。【結果】①摘出肺の耐圧性評価ではGS群 102.9±15.6 cmH2O, FG群 28.37±5.1 cmH2O(P<0.01)。追従面積はGS群1893(2.1倍)±292 mm2およびFG群 1302(1.4倍)±213 mm2(p=0.016)。②急性実験ではGS群 68.8±18.0 cmH2O, FG 群 43.3±7.1 cmH2Op=0.021)。③慢性実験では両群で気漏再発はなく有害事象を認めなかった。GSは8週、FSは2週で吸収されており、初期の炎症所見がFSに対良い傾向があった。【結語】新規組織接着剤(GS)は高い接着性と追従性を有し、約8週で吸収され慢性的にも有害事象なく、気漏閉鎖への臨床応用が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
慢性実験を予定通り遂行し、長期の接着性と安全性を評価し、下記論文を公表した。
Alaska pollock gelatin sealant shows long-term efficacy and safety in a pulmonary air leakage rat model. Yanagihara T, Maki N, Kawamura T, Kobayashi N, Kikuchi S, Goto Y, Ichimura H, Watanabe S, Taguchi T, Sato Y European Journal of Cardio-Thoracic Surgery. 62(5), 2022 10 04.
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