研究実績の概要 |
EGFR変異陽性肺癌切除症例におけるcyclinD1の発現と臨床病理学的背景や予後との関連を明らかにすること、EGFR変異陽性肺癌細胞株におけるEGFR-TKIとCDK4/6 阻害剤の併用効果を検討することを目的とし、臨床検体、細胞株を用いて解析を行った。臨床検体(n=100)では、Cyclin D1蛋白発現割合の平均値は52%であり、50%をカットオフとしたところ、高発現を59例(59%)に認めた。Cyclin D1高発現は、女性、非喫煙者に多い傾向が認められたが、病理病期やEGFR変異の種類とは関連を認めなかった。CyclinD1高発現群は低発現群より予後がよい傾向が認められた(3年無再発生存率94.5%, 80.9%, p=0.06)。 細胞株では、EGFR変異陽性肺細胞株(H1650、H1975、PC9)にAbemaciclib (CDK4/6阻害剤)とOsimertinib (EGFR-TKI)を単剤、または併用して投与し、G1/S/G2+M期の割合をFlowJoで解析した。PIとEdUの二重染色の結果、いずれの細胞株においてもAbemaciclib単剤投与時と2剤併用時に、S期の割合が減少した。次に、cyclin D1とERα/βの蛋白発現を解析した。エストラジオール(E2)投与下の細胞増殖曲線の変化をMTTアッセイにより検討したが、肺癌細胞株では、ERαの蛋白発現をほとんど認めず、E2によるcyclin D1の増加も認めなかった。MCF7においてはE2によりG1/S移行が進み、細胞増殖が促進されたが、H1975においてはE2によるG1/S移行を認めず、MAPK経路の活性化を認めた。肺癌細胞株ではE2によるERβの増加を認め、乳癌細胞株とは異なる反応を示した。肺癌細胞株ではERβがERの転写に抑制的に働いていると考えられる。
|