研究実績の概要 |
In vivoで得られた腫瘍血管内皮細胞と腫瘍細胞株をスフェロイド共培養を行い、低酸素チャンバー(1%O2)下で72時間培養し, 免疫応答関連物質の挙動を観測している。2年目の検討では培養上清中に抗VEGFR2抗体を添加した場合には、培養上清中のIFN-γ値が上昇することを観測していたが、本年の再現実験ではこの上昇が確認できず、結果が不合理となった。原因として、抗VEGFR2抗体の失活や細胞の劣化が考えられたため、抗体については新たなロットで再実験したが、再現性が得られなかった。前2年度のマウスを用いた腫瘍由来血管内皮細胞の抽出・腫瘍反復移植の実験で仮説に準じた腫瘍増殖促進が観測されいているが、実臨床で同様の所見が得られるかを補完するためにヒトの肺癌切除検体を用いて血管構築と免疫応答の関連を病理組織学的に評価する事を行った(施設倫理委員会承認番号1916-IV)。肺腺癌病理病期I期症例105例の切除検体切片を用いて、腫瘍血管構造をCD31免疫染色を行った。また周辺の膠原線維染色をElastica-Masson-Goldner染色を用いて色調に関して定量解析を実施した。腫瘍浸潤リンパ球をCD4,およびCD8について免疫染色を実施した。血管構築が正常で無い場合には、免疫応答が減弱し、がん患者の生存率が低下することを予測し、血管内皮細胞が免疫セットポイントスイッチとしての機能を持つことの傍証を行えると推測した。しかし実際にはCD31陽性細胞密度によらず、完全切除肺癌患者の生存確率には有意差はみられなかった。一方で、膠原線維が正常な割合で維持されている患者については免疫応答が良好であり、生存率が高い結果が示された。このことは、血管内皮細胞本体が免疫セットポイントスイッチとして機能しているわけではない可能性を示唆していると考えられた。
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