研究課題/領域番号 |
21K08908
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
矢追 毅 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40311914)
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研究分担者 |
井上 匡美 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10379232)
丹藤 創 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80423870)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 肺腺がん / STAS / 腫瘍微小環境 / 空間トランスクリプトーム解析 / 肺気腔内腫瘍進展 / バイオマーカー |
研究実績の概要 |
肺腺癌の新たな浸潤様式であるtumor spread through air space (STAS)が近年、独立予後不良因子として注目されている。病理検索・予後予測に有用なバイオマーカーの開発を端緒として、「STASの発生・進展とその背景にある癌免疫微小環境との関連性」の解明をすることが本研究の目的である。令和3・4年度において単一細胞RNA-seq法による擬似的時系列解析を使って、腫瘍構成細胞個々においてSTASの発生・進展に伴い遷移する遺伝子発現を測定し癌免疫微小環境の変化をモデル化することを目指して研究に着手した。当初計画では、患者腫瘍、近傍正常部由来の病理診断前の「新鮮無凍結」組織についてSTASの有無を自前のマーカーで確認後、各症例組織から約8千細胞を単離しscRNA-seqを実施することを予定して症例収集を行っていた。令和4年度になって、STAS細胞の存在が既知であるパラフィン包埋(FFPE)組織切片を用いる空間トランスクリプトーム解析手法を、当初予算の範囲で利用できる状況になり方針を変更して本手法を用いることにした。令和3・4年度の当院における症例から①STAS陽性充実型腺癌、②STAS陽性乳頭型腺癌、③複数の組織亜型が混在するSTAS陽性腺癌、④STAS陰性の充実型腺癌および⑤STAS陰性の乳頭型腺癌を選び、各々のFFPE組織切片を対象に、組織画像情報とそれに紐づく空間トランスクリプトーム情報を取得した。①~⑤の群内・群間で、腫瘍実質やSTAS細胞の遺伝子発現状態のクラスター分類やマーカー遺伝子を含む特徴的発現遺伝子セットの同定と比較を行い、各々の組織亜型間の相違はもとより各亜型内の不均一性やSTASの有無との関連を見出した。現在、機械学習による画像分類と遺伝子発現データをもとにして、STAS腫瘍細胞の発生分化経路の推定モデルの構築している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画で採用を予定していた、新鮮無凍結組織から単離された単一細胞群を材料とするscRNA-seqの利用から空間トランスクリプトーム解析技法への変更等に伴い、データ取得に進行の遅れが生じていた。本計画申請段階で既に準備を終えていた単一細胞RNA-seq用バイオインフォマティクス解析パイプラインに加え、空間トランスクリプトーム解析用パイプライは令和3年度のうちに準備を整えていたので、令和4年度にデータ取得できたことで、計画にほぼ近いところまでデータ解析を進めることができた。特にSTAS腫瘍細胞の発生分化経路のモデル構築の目処がたった点は大きな進捗といえる。計画では令和4年度の後半には、同定した特徴的遺伝子について免疫組織化学による解像度を上げた解析に取りかかるとしていたが未着手であり遅れている。 一方令和3年度には、STASを伴う腫瘍微小環境の違いを示す分子的基盤の報告がほぼないに等しい状況にあることに鑑みて、バルクRNA-seqデータから選定されたマーカー遺伝子がRT-qPCR法でSTASの有無を確認できることを最終的に確認し、STASの有無による腫瘍微小環境の違いに関する示唆を得ていた。これらのマーカー遺伝子は、空間トランスクリプトームデータにおいてもSTASの有無により発現プロファイルが相違しており、今後のデータ解析に一つの有用な視点を与えるものであることがわかった。 以上からほぼ当初計画は達成していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的である「STASの発生・進展とその背景にある癌免疫微小環境との関連性」の解明に向けて、擬似的時系列解析を使って、腫瘍構成細胞個々においてSTASの発生・進展に伴い遷移する遺伝子発現の変化をモデル化を完成させる。このモデルで指標となる分子に着目した免疫組織化学を他の症例でも実施する。これを通じて、先のモデルの妥当性を検証するとともに、現在のところ存在しない病理検索・予後予測に有用なSTAS特異的バイオマーカーを開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの進捗状況」で触れたように、計画では令和4年度の後半には、腫瘍実質やSTAS細胞のマーカー遺伝子を含む特徴的発現遺伝子について免疫組織化学による解像度を上げた解析に取りかかるとしていたが未着手である。これを実施するのに必要な主に試薬代が次年度使用額として計上された。 モデルで指標となる分子に着目した免疫組織化学を他の症例でも実施することが当初の令和4年度の後半および令和5年度の計画である。翌年度分として請求した助成金と合わせてこれを実施し、先のモデルの妥当性を検証するとともに、現在のところ存在しない病理検索・予後予測に有用なSTAS特異的バイオマーカーを開発する
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