手術中における筋弛緩のモニタリングや、神経筋反応の状況を的確に把握することは、周術期における患者の安全管理において極めて重要である。予備研究として、1軸の磁気センサ(有線)を母指先端近くに装着し、尺骨神経刺激時の運動をモニタする機器と方法を考案し特許出願した(特許6535872)。本研究ではこの発明を発展し、手術中の麻酔深度評価だけでなく、人体運動に関する位置・運動情報をより精度良く計測するために、複数軸の磁気センサを使用する。さらに刺激電流が皮膚中を興奮伝導する現象を生体情報モニタとして利用できるかについても検討する。 初年度は、1軸の磁気センサを用いて尺骨神経電気刺激時の母指内転筋収縮を記録し、標準的な力覚計測による筋弛緩モニターとの比較を行った。母子内転筋の運動は3次元なので、1軸の磁気センサを使用した場合には、装着位置・方向の違いにより収縮性の評価にばらつきがみられ、1軸磁気センサでの計測と評価に限界があることが分かった。また、皮膚通電の2つの電極間のでの体表磁界の計測を開始した。 2年度には、1軸の複数の磁気センサを母指近くに装着したり、母指に磁性体を装着して、尺骨神経電気刺激時の母指運動の安定的な評価プロトコールを探索した。また一方、皮膚通電時の体表磁界計測が、現状の感度での磁気センサで実施できることを確認した。 最終年度には、既存の3軸磁気センサ(blue tooth接続)を用いて、地磁気存在下での磁性体運動によるセンサ出力信号の変化を計測し特徴を解析した。その出力信号のS/N比、及び時間分解能の知見から、神経刺激時の母指運動を精度良く評価するためには、さらなるノイズ低減や時間分解能を向上したセンサ回路の必要性が示唆された。本研究結果は、応募者と研究協力者達の常温作動磁気センサの改良方向を明確に示した。
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