研究実績の概要 |
本研究では、吸入麻酔薬が骨格筋に及ぼす影響の解明を目的に実験を遂行した。培養細胞であるC2C12細胞に吸入麻酔薬を暴露させるin vitroの実験系を確立し、吸入麻酔薬における骨格筋細胞への影響を検討した。吸入麻酔薬であるイソフルラン(1.4, 2.8%)およびセボフルラン(2.5, 5.0%)は筋管径を濃度依存性に短縮した。研究開始当初LPS投与を行い敗血症における骨格筋萎縮への影響を検討する予定であったが、吸入麻酔薬が及ぼす影響に焦点を当てて実験を遂行した。 イソフルランおよびセボフルランは、Atrogin-1, MuRF1の発現量およびLC3B蛋白の発現量を増加させた。このことは、ユビキチンプロテアソーム系、オートファジーリソソーム経路を介した蛋白分解亢進を示唆する。また、SUNSET法によるピューロマイシンの取り込みを低下、P70S6Kのリン酸化低下から吸入麻酔薬が蛋白合成を抑制することを示唆する。これら一連の機序を解明するため、Akt経路に着目した。吸入麻酔薬はAktのリン酸化を低下させ、さらにmTORのリン酸化の低下、FOXO3発現量の増加を示した。IGF-1投与により骨格筋萎縮が回復したことから、吸入麻酔薬の骨格筋に及ぼす影響はAkt経路を介したものであることが明らかになった。 次に、C57BL/6マウスを用いたin vivo実験を行った。吸入麻酔薬暴露が不動化を引き起こすため、坐骨神経遮断および尾部懸垂といった不動化モデルを作成し比較した。吸入麻酔暴露は不動化モデルよりも蛋白分解亢進と蛋白合成低下を認めた。このため、吸入麻酔薬投与は不動化とは別の作用機序が考えられた。重症患者に生じる骨格筋萎縮に鎮静薬が直接作用する可能性を考慮するべきかもしれない。
|