研究課題/領域番号 |
21K08924
|
研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
村田 寛明 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 准教授 (90437856)
|
研究分担者 |
上園 保仁 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (20213340)
宮野 加奈子 東京慈恵会医科大学, 医学部, 准教授 (50597888)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | オピオイド / レミフェンタニル / フェンタニル / 脱感作 |
研究実績の概要 |
μオピオイド受容体(MOR)に作用するオピオイド鎮痛薬のうち、周術期に用いられるレミフェンタニル(RF)とフェンタニル(FEN)について、両薬剤を順次投与した場合のMORの活性変化に関して、MORを安定発現するHEK293細胞株を用いて解析した。同一濃度のRFを反復投与した場合、3 nM以上の濃度では、2回目投与時のMOR活性化の低下(脱感作)を認めた。FENで同様の投与を行うと、1 nM以上で脱感作を認めた。すなわち、FENはRFより脱感作を生じやすかった。さらに同一濃度のRFおよびFENによる脱感作の程度を比較したところ、1 nMで最も差異を認めた。一方で、MORの細胞質内への取り込み(internalization)は、FENよりもRFで強力に生じた。 さらに2回目の投与で1回目と同等のMOR活性反応を得るのに必要なRFおよびFENの濃度を検討した結果、1回目RF(3 nM)の場合2回目RFは10 nM必要であった。一方、1回目FEN(1 nM)の場合2回目FENは10 nM、1回目FEN(3 nM)の場合2回目FENは100 nMを必要とした。1回目と2回目で薬剤を変更したところ、FEN投与後にRFを投与すると、FENを連続投与した場合よりも脱感作を生じやすい傾向が観察された。一方、RF投与後にFENを投与した場合、RFを連続投与した場合よりも脱感作を生じにくかった。 これらの現象について分子機序を解明するために実施したcAMPアッセイやβアレスチンのリクルートメントアッセイでは、RFとFENの間に差異を認めなかった。そこで、異なる視点からの解析としてRFおよびFENのMOR結合部位に関する分子力学的in silicoシミュレーション解析を実施した。その結果、両者のMOR結合部位はわずかに異なり、結合によりMOR分子に異なる構造変化が生じることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RFに引き続いてFENを投与すると効率的に鎮痛効果を得られることを示唆する現象が観察され、RFやFENによるβアレスチンを介したシグナル伝達機構は明らかに異なる脱感作およびinternalizationのプロセスを生じることが示唆された。また、これらの分子機序としてRFおよびFENのMOR結合様式の差異によるMOR分子の構造変化が関与していることが示された。研究の目的を達成に寄与するデータが順調に蓄積されているため、このように判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究で見出された、レミフェンタニル投与後のフェンタニル投与が脱感作を抑制するという現象は、臨床的に有意義な結果である。この現象に関与する分子機序としてレミフェンタニルおよびフェンタニルのMOR結合部位の違いとそれによるMOR分子構造変化の違いが関与していることが示唆される結果を得た。βアレスチンのリクルートメントアッセイに関して、RFとFENの間に差異は認めなかったが、βアレスチンはMORの脱感作およびinternalizationに関与している。したがって、MORの構造変化の違いがβアレスチンのリクルートメント後のシグナル伝達調節に影響を与えている可能性がある。この点を明らかにすることは、本研究課題において重要であると考え、さらに時間を使って詳細に検討することが望ましいと判断した。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者との打ち合わせにZoom等のオンラインを活用することで、これらに関連する経費が予定よりも少なかった。試薬等を必要としないin silicoシミュレーション解析等を行ったこともあり、前年からの繰越額を使用するに至らなかった。今後の推進方策で述べた実験に用いる試薬等に次年度使用額を充当する予定である。
|