研究課題/領域番号 |
21K08927
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
中島 崇行 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (30333644)
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研究分担者 |
竹中 重雄 大阪府立大学, 総合リハビリテーション学研究科, 教授 (10280067)
近藤 友宏 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 講師 (40585238)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 全脳虚血 / 海馬 / アストロサイト / ミクログリア / Smad / TGF-β |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、初代培養グリア細胞を用いたin vitro虚血模擬実験系と全脳虚血モデルラットを用いたin vivo実験系により、「全脳虚血後海馬グリア細胞におけるTGF-β1/Smadシグナルの機能的意義を解明する」ことである。 今年度は培養グリア細胞の増殖へのTGF-β1の効果について調べた。培養グリア細胞はラット胎仔由来の海馬から調製した。培養グリア細胞とは別に、ラット胎仔海馬由来のニューロン/グリア共培養細胞を調整した。このニューロン/グリア共培養細胞中のニューロンを死滅させるためにin vitro虚血模擬として酸素-グルコース除去(oxygen-glucose deprivation: OGD)処置を施し、その培養上清(OGD上清液)を培養グリア細胞に添加した。OGD上清液を添加した1日後および2日後の培養グリア細胞をサンプルとして細胞増殖マーカーであるPCNAに対する免疫染色を行うと多数のPCNA陽性細胞が観察されたが、OGD上清液とともにTGF-β1(10ng/ml)を添加すると、PCNA陽性細胞が減少する傾向にあった。このことはTGF-β1がグリア細胞の増殖を抑制する効果を有することを示唆している。また、グリア細胞にOGD上清液を添加すると培養グリア細胞におけるiNOS mRNAとIL-6 mRNAの発現レベルが上昇する傾向にあった。さらに、グリア細胞へのOGD上清液添加によって、円形を呈していたミクログリアが紡錘形もしくは棍棒状の形態に変化する傾向にあった。今後はOGD上清液の添加によって誘導されるiNOS mRNAとIL-6 mRNA遺伝子発現レベルやミクログリアの形態変化へのTGF-β1の影響について調べることを計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
グリア細胞培養の方法を確立するのに時間を要したために進捗が遅れている。多くの研究者は実験に利用するグリア細胞を出生後の動物の大脳皮質から調整している。我々も実験を始めるにあたって出生後のラット海馬からグリア細胞を調整していた。出生後の海馬からグリア細胞を調整すると、実験に必要な量のグリア細胞を得ることが困難であった。その後何度も試行錯誤を行って海馬由来のグリア細胞を培養するには出生直前のラットから細胞を調整する必要があることが分かった。現在、出生直後の胎仔ラットを用いることで実験に必要な量のグリア細胞を安定して培養することが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は令和3年度に行ったin vitroの実験系を継続するとともに、ラット全脳虚血モデルを用いたin vivoの実験系を行うことを計画している。 (1)初代培養グリア細胞を用いたin vitro虚血模擬実験系 令和3年度に行った研究でTGF-β1がグリア細胞の増殖を抑制する傾向を示す結果が得られたため、令和4年度はTGF-β1のグリア細胞増殖抑制能について定量的な解析を行うことを計画している。具体的にはOGD上清液を添加したグリア細胞とTGF-β1を含んだOGD上清液を添加したグリア細胞をサンプルとして、PCNAに対する免疫染色を行い、単位面積当たりの陽性細胞数を算出し、OGD上清液を添加したグリア細胞とTGF-β1を含んだOGD上清液を添加したグリア細胞におけるPCNA陽性細胞数を比較する。また、OGD上清の添加によってグリア細胞において発現レベルが上昇するiNOS mRNAとIL-6 mRNAに着目し、TGF-β1を含むOGD上清を添加した際にそれらの遺伝子の発現レベルの変化についてPCR法で定量解析する。 (2)全脳虚血モデルラットを用いたin vivo実験系 TGF-β1が全脳虚血によって誘導されるグリア細胞の増殖にどのように影響するかを調べる。全脳虚血処置を施したラット海馬ではTGF-β/Smadシグナルが発生することが分かっている。そのため、ラットに全脳虚血処置を施した後、脳室内にSmadシグナル阻害剤あるいはその溶媒を投与し、Smadシグナル阻害剤投与ラットと溶媒投与ラット間でのグリア細胞増殖について比較する。具体的にはこれら2グループのラット間でGFAP(アストロサイトマーカータンパク質)とIba-1(ミクログリアマーカータンパク質)の発現レベルやPCNAの発現レベルをウェスタンブロットや免疫組織染色によって比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
培養条件の検討に手間取ったことなどにより実験が進まなかったことに加えて、コロナウイルス感染感染拡大防止の影響により、学会がオンライン形式となり旅費の使用ができなかったことによる。
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